月刊デラシネ通信 > ロシア > 長谷川 濬―彷徨える青鴉 > 第9回
今回紹介する長谷川濬の作品は、1962年「文学街」1月号に発表された「サハリン航海記」である。
この作品の背景になった1954年9月の航海については、「彷徨える青鴉」第8回「ポールトのなかの海」のなかで詳しく書いているので、それを参考にしてもらいたのだが、これは彼の北方航海のなかでも、最も印象深いものだった。
死者・行方不明者が千人を越えるという大惨事になった洞爺丸転覆事故があった時、小樽沖を航海していた長谷川が、この台風と遭遇した時の思い出、サハリンに着いてから、植民地の名残でもある鳥居を見ての感慨。この島で出会ったウクライナ人ポヤルチュークとの出会い、家に招かれての家族との交遊を描きながら、満州時代のさまざまな思い出、敗戦の時のソ連軍の略奪、アムール・アルグン河調査の時の思い出を交錯させながら、淡々と綴っていく。肩の力が抜けた自然体のなかで、過去と未来を交錯させる佳品となっている。
長谷川濬 作品2 「サハリン航海記」を読む |
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