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彷書店紀行 ―アートタイムズを置いてくれる店を探して―

第1回 古書赤いドリル

 「古書赤いドリル」の店主那須さんと初めてお目にかかったのは、今年5月谷中で開かれた一箱古本市の会場だった。売り場が同じブロックだったのだが、なにより印象深かったのは、初めて出品したデラシネ通信社の第一号のお客さんが那須さんだったことだった。
 「アートタイムズ」1〜4号のセットを買っていただいた。実はこれも偶然だったのだが、この一週間ほど前に、5号をデラシネショップで購入してもらっていた。70店近く出店があったなかで、こうした偶然が重なるということは何か縁があるということなのだろう。
 なによりも嬉しかったのは、奥さんが家からわざわざ拙著「サーカスと革命」を持ってこられたのだが、その本がとてもきれいに包装されていたことだった。本が好きな人だということがすぐにわかった。この時に名刺代わりにもらった栞(紐のギザギザがとても好きで、愛用の一品になっている)に、6月に下北沢に古本屋を出すと書いてあった。本が好きな人が開く古書店、どんなお店になるのかとても楽しみだった。

古書赤いドリルの書棚 開店したことを知り、店を訪ねたのは6月26日。下北沢駅南口から歩いて5分もしないところにあるのだが、表通りではなく、ちょっと路地に入ったところなので、フリーの客がふらっと入るという感じではない。目指して行くところだ。いまをときめく中華チェーン店「王将」を過ぎたところが三叉路になっているのだが、駅を背中にして手前の道を右に入ったところにお店があった。
 そんな広いお店ではないが、奥にはバーカウンターもある。天井はかなり高く、その天井まで本が棚にぎっしり。目を引くのは、70年代や連合赤軍に関しての本、昭和という時代が色濃く浮かび上がる。那須さんは1968年生れとのこと。ダメじゃん小出と同じか、とフト先日見た彼のライブのことを思い出した。寸又峡温泉の旅館に籠城した在日韓国人金嬉老事件のことをネタにしていたのだが、この事件が起きた年1968年に自分は生まれたと語っていたことが、何故か頭にこびりついていた。
 1968年という年は、日本が叛乱に立ち上がった年といえるかもしれない。チェコでプラハの春があった年、日本でも学生運動が激化し、11月に新宿で騒乱事件、東大でも紛争が長引くなか翌年の入試の中止が決定された年でもあった。本棚に並べられたこうした昭和の事件を物語る本を見ていると、この時代高校一年だった自分の姿が甦ってくる。

特別展示コーナー バーカウンターの近くに、ロシアアヴァンギャルド風の陳列棚がある。ここが特別展示コーナーになっている。那須さんの本への愛が、本棚の陳列からも感じられるのだが、値付けにも、その人の良さが現れている。自分の好きな本、それは手放したくないもの、だからちょっと高くしてしまう。これだけ本の好きな人に売られる本は幸福だと思う。
 バーカウンターに座ってアイスコーヒーご馳走になって話しているうちに、私の本を陳列するコーナーをつくりたいという話になった。と言ってもすでに絶版の本が多く、手元にも残っていないため、全部というわけにはいかないが、もしもそうしていただけるなから嬉しいとは答えたものの、まさか実現するとは思わなかった。しかし今度アートタイムズを納品するのをきっかけに、手持ちにある自分の本も納品、ここに大島コーナーができることになった。こんな本を愛する人の店で、自分のコーナーができるなんてなんたる幸福。
 なかなか暇がなく見に行けてないのだが、近日中にぜひ訪れたいと思っている。

古書赤いドリル


6号のディスプレイ
今回納品したアートタイムズ6号のディスプレイ
大島コーナー
大島コーナー!




 「アートタイムズ」は一般の流通には乗せられず、手売りで捌いているのが実情である。号を重ねるごとに、中身の濃い、いい雑誌になっているという自負はあるのだが、それは読者を持たないと、意味を持たない。早くから取り扱っていただいている模索舎さん、5号から販売していただいている古書ほうろうさんでは、追加納品するなど、売れているのだ。こうした本屋さんを増やしていく努力を続けていかないといけないと思っている。本屋さんに限らずアートタイムズを売ってもらえる場所を探し求めていきたい。小さなことかもしれないが、こうしたことから何かが始まるような気がする。
 ということで、またいつまで続くかわからないが、彷書店紀行という連載をしながら、アートタイムズを置いてくれる本屋さんを求め、全国を旅していきたいと思っている。


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