月刊デラシネ通信 > その他の記事 > 彷書店紀行 > 番外編 ドーム・クニーギ(サンクトペテルブルグ)
![]() サンクトペテルブルグ ドーム・クニーギ外観 |
![]() ドーム・クニーギ入口 |
![]() エンギバロフの詩集 「Клоун с Осенью в Сердце」 |
![]() マカロフさんの本 |
9月にサンクトペテルブルグを訪れた。久しぶりのサンクトであったが、よく歩いた。ホテルが目抜き通りのネフスキイ大通りの近くにあったこともあったが、毎日人でごった返しているネフスキイ大通りやサーカス場があったフォンタンカ運河沿い、ネヴァ川沿いなどを暇さえあれば歩いていた。歩いて気になったのは本屋さんが多いことだった。モスクワでもこんなに本屋はないだろう。
日本で最近本屋に入ることが少なくなった。何故か?本屋がつまらなくなったからである。売れる本しか置いておらず、未知のものと出会う場ではなくなった。かつての神田の書泉グランデ、大阪梅田の旭屋書店、閉店になった小倉の本屋さんなどは、行くのが楽しみであった。行けばなにか出会えたものである。いまはほとんど本屋でじっくりと時間をすごすということがなくなった。
日本でそんな状態だったのに、サンクトではよく本屋さんに入った。その中でもワクワクしながら入ったのが、ネフスキイ大通りの中心にドーンと立っているドーム・クニーギ(本の家)である。1919年にオープンした歴史ある本屋さんなのだが、ここがすっかりすっかり気に入ってしまった。なによりも広々として落ち着いている雰囲気が心地よかった。入ると天井が高く店の内装が茶色系で統一されているのだが、昔風の図書館のようにしっとりとしているのだ。そしてなんでもかんでも並べりゃいいだろう的な本の並べ方ではなく、大雑把な分類でゆったりと本棚に本が並べられている。この落ち着いた雰囲気のなかで、店内で本を探す人たちもゆっくりとじっくりしているのがわかる。これが本屋さんらしくてよかった。
何よりも気に入ったのは、サーカスの本がたくさん置いてあったことだ。モスクワのドーム・クニーギではぜったい置いていないようなサーカスの専門書が10種類ほど置いてあった。その中にはエンギバロフの本が3冊あった。2冊は研究書、1冊はエンギバロフの詩集であった。そして今回のペテルブルグの旅でとても重要な意味をもつ出会いとなったサーカス研究者のマカロフさんの本も5冊あった。
マカロフさんと初めて会った日に、拙著「海を渡ったサーカス芸人」と「アートタイムズ」6号(「サーカス学」誕生)をプレゼントした時に、僕の本もプレゼントしたいのだけど持ってきてないんだと残念そうに答えていたのだが、2日後マカロフさんは5冊の著書をプレゼントしてくれた。きっと「ドーム・クニーギ」で買ったに違いない。ちなみこの時マカロフさんにいただいた本の題名を列挙すると、「ロシアサーカスの中国の知恵―中国とロシアサーカスの関係」「ソ連時代のクラウン芸術」「サーカスの演劇化」「古代娯楽から見世物芸術へ」「シャーマン、フリーメーソン、サーカス」となる。タイトルからだけでもマカロフさんの守備範囲の広さがうかがえる。
「アートタイムス」を置いてくれる本屋さんを探す旅を綴るのがこのコーナーの目的だったのだが、さすがにここで置いてくれませんかというお願いはできなかった。番外編ということにしておこう。ただサンクトに持ってきた「アートタイムス」6号、15冊は瞬く間になくなったことは事実。サーカス関係者が多かったので名刺代わりに渡したのだが、みんなとても喜んでいた。もらえなくて地団駄踏んでいたサーカス関係者も多かったらしい。もっと持ってくれば良かった、と思ったのも後の祭りであった。
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