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【短期連載】フール祭の人々

フール祭レポート

 カフェ・クマに書いた『第二回東京国際フール祭』のレポートを転載します。

フール祭レポート1 初日
フール祭レポート2 KOYO MIME LIVE
フール祭レポート3 神山一朗ソロライブ
フール祭レポート4 亀田雪人『道化師と曲芸』
フール祭レポート5 タミラ公演終わる


フール祭レポート1 初日

2002年10月9日 水曜日 10:49a.m.

 いよいよ開幕した、第二回東京国際フール祭。例によって雨まじりのあまりよくない天気の中でのスタートとなった。
 会場には、オープニングということもあり、フール祭に出演するアーティストたちや、パフォーマーなど、ACCの公演をよく見てくれる常連さんたちを中心に、七割程度のお客さんが集った。最初に代表の西田から挨拶があったあと、ミクロバンドのステージ。およそ70分の公演だったが、お客さんたちの笑いが絶えなかった。公演後みんな文句なく楽しかったと口をそろえて感想を言ってくれたのが、嬉しかった。
 公演後ロビーで簡単なレセプション。ミクロバンドをはじめ、タミラ、クザンのジュロとルネ、山本光洋、京本千恵美、CHiCA、重森一、チバドロアノなど出演者や、顔なじみのお客さんを交えて、ワインやビールを飲みながらしばし懇談。ミクロバンドのまわりには、公演を見て、すっかり興奮したお客さんが集まり、ふたりはサインを求められたり、質問を受けたりしていた。
 初日がとにかく無事終わったということで、われわれスタッフはとりあえず、ホッとする。ただ心配なのは、やはり思ったほど当日券を購入するお客さんや、あちこちに配布した当日精算券で来場する人が少なかったことだ。集客の面で勢いがまだ感じられない。一週間ある公演の初日ということで、スタートはこんなものなのかもしれないが・・・
 会場内には、画家高須賀優氏の「笑うサーカス」と題された絵画展、さらには9日まで京橋で個展を開いている人形作家阿久根チカコさん(今回のフール祭のポスターの絵を描いてもらっている)の人形原画展も開催され、フール祭に彩りをくわえている。

フール祭レポート2 KOYO MIME LIVE

2002年10月10日 木曜日 11:21a.m.

 国内出演者のトップバッターは山本光洋。気合の入ったステージを見せてくれた。全体的に雰囲気がずいぶん明るくなったような気がする。オープンニングは、カズーを使いながらのマイム。光洋の持ち味のひとつでもあるナンセンスな笑いが全面に出ていた。おなじみの逆立ち君や、テッチャンのネタもうまくとり入れていて、すんなり笑いの世界に引き込んでいた。このかろやかな出だしが、全体を通じて生きてきたと思う。今回のネタは、昨年モノプレイ1・2で演じたものが多かったが、さすが凝り性の光洋だけであって、これにいろいろ手をくわえてきた。今回は、モノプレイにも出演していた加納真美の出番がずいぶんと多かったのが、目についた。衣装チェンジや場面転換などでどうしても、間を埋めないといけないということもあったのだろう。加納のボーとしたキャラクターがいいメリハリをつくっていた。
 圧巻は操り人形ネタ。モノプレイでも演じていたが、今回は意表をついて、カーボーイという設定にした。マイムで操り人形を演じるというのは、かなりの技術を要求されることだと思うのだが、糸がゆるむシーンでの脱力感の出しかたなどは、見事であったと思う。
 お客さんをあげて、オルゴールを鳴らさせ、そのあと前にも出ていた加納が操るでかい人形と光洋が出てきて、人形を割って、風船が出てくるというエンディングも良かった。いままでにないような和みが感じられる明るい演出だった。
 見ていたミクロバンドやクザン、タミラたちも口々に絶賛していた。特にマリオネットものはみんなびっくりしたようだ。タミラなどはスーパと言っていた。
 フール祭のいいところは、こうした出演者がいろいろ見て、感想や意見をいう場があるということだ。
 お客さんも昨日よりたくさん入った。
 公演後光洋が、「ああ終わった終わった」と言っていたのが印象的だった。こうして二日目はかなりいい感じで終わった。

フール祭レポート3 神山一朗ソロライブ

2002年10月11日 金曜日 3:29p.m.

 今回のフール祭で一番注目されていた公演ではないだろうか。自分は本番は見れなかったので、ゲネを見たのだが、問題作であったことは間違いないと思う。神山がやりたいと思っているものはかなり出せたと思う。ただそれが完璧にできたかというと、まだそこまでには至らなかったというところではないだろうか。
 フール祭ということで笑うことを期待してきた人たちにとってはちょっと異質なものだったかもしれない。ただこうした異質のパフォーマンスが、神山がやりたいものであることは事実である。その意味ではこのチャレンジは重要な意義を持っていると思う。
 核爆発が起こったあと、放射能が蔓延するある密室での出来事を描いたのが、今回の作品である。ある種の世紀末的状況のなかで、食べ物を食べる、煙草に火をつけるというような当たり前のことが当たり前にできないという状況の設定は、とても良かったと思う。こうした悲劇的シチュエーションのなかで起こる喜劇的なこと、それを積み重ねていくというアイディアは、喜劇の正統的文法のひとつである。冬山で遭難したという設定で描かれていたチャップリンの黄金狂時代もそのひとつかもしれない。それを神山は、さまざまな仕掛けやマジックをつかいながら、構成していく、ここに神山ワールドが垣間見れる。その仕掛け自体は十分におかしいし、ハッとするものがあるのだが、あまりにもゆっくりと展開していくので、オチのところではぐかされてしまう感がした。ここは今後の課題といっていいのではないだろうか。
 オープニングの登場のシーンのあやしさ、エンディング近くでの吹雪のつかいかた、ああした雰囲気の作り方は、いままでの日本のパフォーマンスにはないもので、神山独自の感性だと思う。
 彼にとって、はじめての長編作品であり、それに挑戦することで、いろいろなことが勉強になったはずだ。構成のメリハリの大事さ、全体のテンポという問題、そうしたことは実際に作品をつくらないとわからないことだろう。
 その意味で是非また今回の作品をふくらませるかたちで、早い機会にチャレンジしてもらいたい。それだけ可能性をもった作品だと思う。

フール祭レポート4 亀田雪人『道化師と曲芸』

2002年10月12日 土曜日 2:22a.m.

 前日の神山一朗の公演では、さまざまなものが舞台をおおいつくし、照明や音もずいぶんとこっていたが、今日の舞台はいたってシンプル、ほとんど生明かり、舞台にあるのもトランクひとつ。のっけから亀ちゃんの語りからはじまる。宮崎の都城で生まれたときから道化師になるまでの話を、朴訥としゃべりながら、のんびりと舞台はすすむのだが、いつのまにかその素朴な語り口にはまってしまう。この『間』が、亀田雪人の、持ち味なのだと思う。決して語りが格別にうまいわけでもない、マイムも、シャープなわけではない、でもひきこまれてしまう。ひきこんでしまうなにかがあるのだ。
 お客さんをつかって、輪投げや、レモンやりんごを投げさせて、口にくわえたフォークで刺させる演し物は、何度もみているはずなのだが、いつも笑ってしまう。結果はわかりきっているのに、笑わせる、その絶妙といってもいい『間』、『呼吸』とでもいえるものが、あるのだ。これはきっと亀田にしかできない芸なのだと思う。みている人の心を温めるなにかがあるのだ。
 たぶんこのなにかが亀田にしかない道化師魂なのだろう。
どうして自分が道化師になったのかを、素朴に語りかけるこの構成には、まだまだいろいろな可能性があるようにも思える。ずば抜けて才能があったわけでもないし、どうしても道化師になりたくてなったわけでもない、むしろなにをやっても中途半端になっていた人間が、消去法のなかで、選んだ道を、少しずつ一歩一歩、まさにどん亀のように、歩くというこの姿勢は、勇気を与えてくれる。誰でもやればできるんだという思いを抱かせる。
 途中流れる『若者たち』とか『どうにかなるさ』という歌が、とてもなつかしかった。
 亀田さんには、ぜひこの作品を大事に育てていってもらいたい。

フール祭レポート5 タミラ公演終わる

2002年10月13日 日曜日 0:35a.m.

 フール祭もいよいよ後半戦。今日はウクライナから来たタミラの公演。実はこの公演が、一番たいへんだった。なにがたいへんかというと、まず舞台セットを日本でつくったこと、ウクライナで公演したときのセットをそのままもって来ると、金がかかる、それで日本でつくろうということになったが、やはりタミラにすれば使い慣れない道具ということもあり、扱いかたで苦労していた。そのためスタッフはいろいろな修正を求められ、直しがたいへんだった。スタッフも連れて来れなかったので、音響、舞台、照明とのあわせに時間がかかった。リハーサル日をある程度とれればいいのだが、日替公演ということもあり、公演のあと、あるいは前の時間をつかいながらの場当たりやリハになったので、集中してしてつくることができなかった。この3日間タミラも、スタッフもかなりしんどい状況だった。タミラからすれば時間がないことへの焦り、イライラがあったはずだし、スタッフにすれば、公演が終わって、それからリハ、あるいは公演の前でのリハということでまさに寝る時間を削っての作業が連日続いた。昨日朝一回通しでやって、それぞれがきっかけをやっとマスターして、少し安心、そして夜ゲネができて、なんとか今日を迎えることができた。一回目の公演は、それでも思いがけないミスがあった。なんとか二回目でお互いに満足できる公演になったと思う。ほんとうに終わってホッとしたというのが、正直なところだ。
 自分はなにをやったかというと、通訳なのだが、これが結構しんどかった。実は舞台ものでは、初めての通訳の仕事といっていい。サーカスの仕込みは、自分でいろいろやってきたが、ステージものでは、いつも通訳を雇い、やってきた。それは自分のロシア語の限界ということもあるのだが、アバウトではできない仕事だということがわかっていたからだと思う。しかし今回は雇う予算もなかったので、やることになった。ひとつひとつ確認しながらやるという一番自分にとっては苦手なことで、たいへんだった。自分の仕事は、このタミラの公演が終わったことで、フール祭は一区切り。明日から大阪だ。今回のフール祭の大きな見どころでもあり、自分でも楽しみにしていたオムニバス公演がみれないのはとても残念なのだが・・・この公演についてはなんかのかたちで紹介したいと思っている。


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