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気になる芸人列伝

第1回 ダメじゃん小出

いまノリにのっているダメじゃん小出をとりあげます。隔月ではじまったソロライブも、8月で四回目、さらには9月には野毛の一千代で「鰻どんライブ」を開催します。

これまでに見た舞台の評 クマの観覧雑記帳

外部リンク   
お笑いプロデューサー木村万里さんの『ダメじゃん小出ソロライブVol.3』評
「目つきの悪いパンダ」
8月26日付毎日新聞夕刊 ダメじゃん小出の記事


カバチッタ公演のダメじゃん小出 8月28日ダメじゃん小出ソロライブ『負け犬の遠吠えVol.4』があった。毎日新聞で全五段という破格の扱いで、紹介された直後ということもあり、超満員のステージとなった。しかもこの日、朝日新聞、週刊現代の記者が取材にきており、小出フィーバーは、まだまだ続きそうな感じだ。planBという地下室から、もしかしたら新しいスターが生まれようとしているのかもしれない、そんな予感さえする。
 近くで見ている感じ、こうしたまわりの熱さに対して、本人はきわめて冷静なようだ。仙台弁でいうと、「おだっていない(はしゃいでいない)」。静かに対応しているようだ。どうしてこんなに周りが騒いでいるのか、不思議だとは思っているようだが・・・

 小出と初めて会ったのは、たぶんクラウンカレッジ時代だと思う。その時の彼の印象はまったくない。まともに口をきいたのは、そして小出という芸人と付き合うようになったのは、プラコメをたちあげたばかりのことだと思う。その時は目立たない男だった。他のプラコメのメンバーのなかでひっそりとわざと目立たないようにしていたのではないかと思うくらいだった。
 プラコメが始まった時から、小出は打ち合わせなどによく顔をだしていた。打ち合わせのあった日、planBの近くの中華屋で腹ごしらえをしていた時、小出と出くわした時のことをよく覚えている。あとから店に入った自分には最初は気づかなかったようで、なにか食べながら、「アエラ」を読んでいた。アエラを読んでいるのかと、ちょっと意外に感じた。支払いをして帰る段になって私に気づいて、ちょっと驚いて会釈をしてきた。こんな目立たない男のことが、突如気になったのは、プラコメのステージで、「Go!Go!小出君」というネタを見たときからだった。
 これは私が見たかぎり、プラコメで演じられた数々のネタのなかで、ベストステージだったと、いまでも思っている。とにかく震えがくるような迫真のステージだった。

 この時小出は、確か帽子をかぶり、知恵遅れの、電車オタクの少年に扮していた。電車オタクのシーンを演じているうちに、狂気が次第に小出に宿ってくる。それからの演技で、まさにいままでステージで見たことのないような『狂』の世界が現れた。演じているのか、地を見せているのか、演じ手と演じられるものの境界がなくなり、まさに狂気の世界にとり憑かれたひとりの男だけがいた。あの場にいたパフォーマーたちもあっけにとられるほどの凄さまじいまでの狂気だった。日本にもこんな狂気の「笑い」を演じる芸人がいたのか、その時の興奮はいまでも忘れられないでいる。
 この時の話を小出にすると、「あの時はいろいろありましたからね」、「もうできないっすヨ」と言う。確かにあの時一回だけ狂気が小出に宿ったのだろう。2回ほど同じネタをplanBでやったが、あの時の迫力には遠く及ばなかった。
 聞いてみると小出は小さい時から電車オタクだったという。大道芸でもやっている品川というギャグも、その延長からできたものだろう。
 あの電車オタクを見てから、小出のことが気になり始めたのだと思う。

 プラコメをやりながら、また世界のクラウン芸を紹介しながら、黒い笑い、狂気の笑い、そんな毒をもった芸人がいてもいいのではないかと思っていたときだった。
 もしかしたら小出は、この路線でいける芸人なのかもしれないという気がした。同じように黒い笑いを演じていた元気いいぞうのライブに誘ったり、アメリカのコメディアン、アンディ・カウフマンの映画『マンオブザムーン』を見るように言ったりした。彼は元気いいぞうのライブに何度も顔を出したし、カウフマンの映画も見て、気になりますよねなんて言ってきた。
 同じように黒い笑いに挑んでいたカルトシンガー元気いいぞうと、ジョイントをさせようと思ったのも、もしかしたら互いに共通するもの、そして競い合うものがあるのかもしれないということがあったからだと思う。
 この対決の場(「バトルライブ・挑発」)をプロデュースしながら、海外出張とぶつかり、現場には立ち会えなかったことは、とても残念だったのだが、小出は確かに元気いいぞうと同じステージに立つなかで、持ち前の負けん気に火がついたのではないかと思う。
 時事ネタをさかんにつくるようになり、こうしたネタは、何ヶ月に一回やるのではなく、毎月続けるなかで、磨きがかかるのじゃないか、定期的にソロライブをやろうともちかけたのは、小出の中に、なにか溢れ出てくるようなエネルギーを感じたからだと思う。
 そして今年の2月から、ソロライブがはじまった。これが小出の創作エネルギーに拍車をかけた。
 ジャグラーとして出発した男が、ジャグリングを潔く捨てて、黒い笑いに挑もうとしている。それがいまのところは成功しているようだ。
 マスコミにとりあげられるなか、客層も広がっていくだろう。客層が広がるなかで、またもまれていくことになるだろうし、さまざまな客との出会いのなかで、どんな芸人にこれから育っていくのか楽しみである。

 とにかく負けん気の強い男である。これは大きな武器だと思う。
 気のいい、面倒見のいい男でもある。
 これからの小出は、否応なくいろんな人たちと出会うことになると思う。そんな中で負けん気を大事にしながら、自分のもっているものを大事にしながら、大きく育っていって欲しい。私も、ここまでこんな風に付き合ってきたし、どこまで、どんな方向に行くのか気にもなっているので、プロデューサーとして最後まで付き合っていきたいと思っている。必要はないと思うけど・・・
 いままでは小出に、こんなことやろうと声をかけていたが、今度は小出のほうからこんなことしたいンスけどなんて声がかかる日がくるのも、そんな先のことではないような気がする。


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