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今週買った本・読んだ本 7月4日

『アラビアンホースに乗って−ふたりで挑んだ遙かなるデヴィス』
著者 蓮見明美
出版社 洋泉社
定価 1429円+税 2004年6月刊行
購入の動機 本屋で見て

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 石川さんの徒歩日本縦断で、元気づけられたわけだが、この本もシルバー世代の挑戦もの。元気づけられたというよりは、その過酷なレースに挑んだその勇気と体力にとにかく脱帽だ。

 突然テレビで、アメリカの荒野を一昼夜かけて騎馬で走り抜けるというレースを見て、還暦を迎えたひとりの男が、このレースに挑戦すると言い出す。しかも馬に乗ったこともないのにだ。このレースというのは、エンデュランス・ライドと呼ばれる長距離耐久乗馬レースで、24時間以内に100マイルを走破するというもの、距離が100マイルというだけでも驚くのだが、しかも山を越え、谷を渡り、断崖のトレイルもあるというめちゃめちゃハードなライドレースなのだ。おおげさに言えば、まさに死と背中あわせのレースなのである。これにまったく乗馬経験のない60歳のおやじが、挑戦するというのだから、半端じゃない。

 著者はこの過酷なレースに挑んだ蓮見清一(あの「宝島」を出している会社の社長さん)の奥さん、彼女は副題にもあるように、夫のこの挑戦を支えることになる。
 結論として、この過酷な挑戦に見事成功してしまうのだから、とにかくお見事、すごいとしか言いようがない。済州島でちょっと馬に乗って、乗馬もいいなあと思っていた時に本屋で見つけて買ったわけだが、例えば石川さんの『日本縦断徒歩旅行』を読んだときは、自分にもできるかなあと思ったが、これはとてもとてもできるもんじゃないと思った。とにかく過酷すぎる。

 乗馬を一から習い、アメリカに何度も渡り、自分で馬も買い、そして1年半後にはこのレースを走破してしまうのである。徹頭徹尾過酷すぎるのである。まず例えば24時間テレビのタレントがするマラソンとちがって、乗馬は、馬と一体にならないとできるものではない。このレースは、途中いくつも関門があるのだが、馬の調子が少しでも悪ければ、それで失格になるのである。自分だけが良くても馬をダメにしたらそれで終わってしまう。さらに蓮見を苦しめるのは、参加した年からルールが変わり、このレースの参加資格として、それ以前にのべ150マイルのライドレースをこなさなてくはならないのだ。エンデュラスライドでも最も過酷といわれるデヴィスレースを乗り切るより以上に、この150マイルの実績をつくるまでの蓮見の挑戦が、この書の最大の読みどころといってもいい。

 こんなレースがあること自体知らなかったのだが、いかにも西部劇の国アメリカらしいレースといえよう。馬で走りたいという少年からの夢が、いきなりこの世界で最も過酷なライドレースに、いってしまうところが、驚きでもある。おそらくかなりストイックなもの、自分をいじめて、目的に達するというそういうメンタリティーがあるのだろうなあ。
 すごいとは思うし、この挑戦には拍手を送りたい、そして決しておおげさな記述に走らず冷静な筆致で書かれたこの書の出来も素晴らしいとは思う。でもやはり自分にはできないということもあるのかもしれないが、石川文洋さんのあの旅の方が、自分は好きだ。蓮見さんの挑戦は、見事に成功するわけだが、なにか無理しているような気がしてならない。肩肘張らずに、自然体の石川さんの旅の方が、いまの自分にはふさわしいような気がした。

 これを読んで思い出したのは、アメリカ横断マラソンレースに参加した人間像を見事に描いたトム・マクナブの『遙かなるセントラルパーク』。20年ぐらい前に読んだ本だが、いまでもあの興奮は忘れられないでいる。あの時は自分もこんなレースがあったら挑戦したいと思ったもんだが・・・・やはり年なのかなあ。


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