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今週買った本・読んだ本 9月3日

『女大関若緑』
著者 遠藤泰夫  出版社 朝日新聞社
発行日 2004年3月  定価 1500円+税

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 前に紹介した『別冊東北学』に掲載された女相撲のルポがとても面白かったので、ネットで購入した本。千葉由佳さんのルポを読んで、ひとつ納得したのは、女相撲が人気になっていく背景には、裸への期待ではなく、強さへの憧憬があったことだった。それは女相撲興行で、長年大関として活躍したこの若緑の伝記を読んでも、感じられた。
 著者は、若緑の息子さん。山形の良家の娘だった母親が、たまたま見かけた女相撲に惹かれて、家出して、相撲取りになるまでの話が前半。後半は、戦争とともに一座が解散、愛媛に居を据え子供たちを育てる苦労話になっている。
 母親からじっくり聞き込んだ話のなかで、興味をひくようなエピソードをじっくり書き込んでいて、それはそれで面白いのだが、もう少し女相撲での生活ぶり、修行ぶりなども書いてもらったら良かったのになあという気がしないでもなかった。ただ当時の女相撲の人気ぶり、そのステータスの高さについては、驚かされる。女学生だった若緑が、家出して飛び込んだ相撲の世界、そこで見事に大関となって7年目に、故郷での興行が決まる。かつて家出を手引きした友人が、これを機会に故郷に錦を飾らすための仕掛けをするところはなかなか泣かせるのだが、それは際物ではなく、強い者への賞賛、憧れがあったからこそだ。だから温かく家族も、町の人も彼女を迎え入れたのだと思う。
 見世物とはまたちがう、面白い一面をもった興行であったことはよくわかる。
 先代の高砂親方が、親しかった若緑のために、取り上げ相撲をしてあげるとき、男しか上がれない土俵に若緑をあげさせるところがある。同じ相撲仲間だからということで高砂が英断したことだが、いまでも大阪知事が土俵に上がるかどうかでもめているのを見ると、こんなにすんなりタブーが、破られていたわけで、痛快なエピソードであった。


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