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【連載】長谷川 濬―彷徨える青鴉

出版頓挫中・・・

 この評伝の出版を約束してくれた出版社から手紙が届いたのは昨年の暮れだった。なんとなくイヤな予感がした。
 出版を引き受けていただいてから、年賀状は来たことはあったものの、手紙が来るのは初めてだった、なにか異変があったとしか考えられなかった。やはり予感は的中、手書きで便箋五枚に、この評伝の出版が難しくなったということが書き連ねてあった。取次から単行本を出しすぎるというクレームが入り、やむを得ず出版を見送りたいということだった。
 出版業界の不況が言われてから久しいし、そうでなくても電子書籍の問題が現実となっている昨今、こうした断りが来ても不思議はない。出版を受けていただいてからすでに三年の時が経っていた。もう少し早くかたちにすれば良かったという後悔はあったものの、仕方ないかというのがその時のいつわらざる気持ちであった。

  この手紙を受け取ってから、執筆に拍車がかかり今年一月にはやっと書き終えることができたのは、まさに皮肉以外のなにものでもなかった。
 断りをいれてきた出版社にもう一度プレゼンする機会をもらいたいというのが、エネルギーになったかもしれない。執筆を終えて、すぐに原稿だけでも読んでもらえないだろうかという手紙を書いたのだが、返事は原稿を見ても出版は無理だろうということだった。可能性はあまりないとは思ってはいたものの、やはりショックだった。

  いままでが順調すぎたのだ。平凡社、新潮社、岩波書店という名門の出版社から出させてもらったのは、むしろありがたい話だったのだ。いまの状態、出版社のあてもなく、原稿だけがあるという状態は、ある意味普通のことなのだろう。
 書き終えた原稿は、原稿用紙に換算しておよそ四百五十枚あった。書き終えた原稿をこれだけ読み返した原稿はないかもしれない。ひとつには原稿も書き終え、手持ち無沙汰になったということもある。もうひとつはどのくらい贅肉を落とすことができるかということを試したいということもあった。いまさらながら絞り込もうと思うと、いかに贅肉があったがわかった。そういった意味ではいい勉強にはなったかもしれない。
 いくつかの出版社に打診するかたちで、企画書をつくり送ったりしたが、いまのところこれといった反応はない。

 取材させていただいた方には、ほんとうに申し訳ないのだが、ここはゆっくり構えるしかないと思っている。
 シュンさんは待っていてくれると思うのだが・・・・

2011.05.26

 


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