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特 集
玉井喜作、再び!

現在連載中の「イルクーツク艱難日記」で、玉井のシベリアでの悪戦苦闘ぶりを彼の肉声を通じて紹介しています。最近玉井に再び注目が寄せられるようになりました。それを紹介します。


 1998年に出版した拙著『シベリア漂流−玉井喜作の生涯』はたいした評判になることもなく、昨年絶版になりました。気骨ある明治男の破天荒な生涯を、ひとりでも多くの人に知ってもらいたいと思ったのですが、十分にその目的を達することができなかったことは、私にとっても悔いが残ることでした。
 『デラシネ通信』で彼の残した日記を紹介しているのは、少しずつでも玉井という男に興味をもってもらいたいと思ってのことです。私の中では、まだ玉井喜作のことは終っていません。そんな時サンケイ新聞の大型連載企画「日本人の足跡」の中で玉井のことがとりあげられたり、さらには新たに玉井の足跡に迫る動きがでてきたのは、喜ばしい限りです。

 ここでは今年になって取り上げられた玉井について論じたものを紹介したいと思います。一度『デラシネ通信』の読者から、海外で活躍した日本人のことをもっと多く知りたいという問い合わせをいただきました。玉井に関連して、海外で活躍した日本人について書かれた本を最後に掲載しておきました。
 私自身も若宮丸漂流民とのつながりのなかで、玉井のイルクーツク時代をしばらくは追いかけていくつもりです。

1.『伝説の旅人 1841−1974 国境を越えた56の魂』
2.『日本人の足跡 玉井喜作 1−5』
3.「日独文化交流を支えた人々 第2回 玉井喜作」
4.泉健氏の『東亜』全目次
海外で活躍した日本人について書かれた著作について


1.『伝説の旅人 1841−1974 国境を越えた56の魂』

  平野久美子・文藝春秋「ノーサイド」編
  文春ネスコ刊、2001年、本体1,600円

 1995年「ノーサイド」4月号でとりあげられたものに、一部加筆されたかたちで出版されたもの。伝説の旅人というタイトルがいい。国境を越えた56人の旅人たちのプロフィールを簡単に紹介したもので、玉井については編者の平野が書いている。時代はことなるにせよ、玉井同様夢を求めて海外に旅立った人たちの群像をかいまみることで、いわいるエリートではない日本人たちの雑草精神を知ることができる。玉井というよりは、玉井と同じような志をもったコスモポリタンたちの列伝として読めた。

2.『日本人の足跡 玉井喜作 1−5』

  産経新聞朝刊2001年10月16日(火)−21日(日) 20日は休載
   第1回 第2回 第3回 第4回 第5回

 整理部の新村俊武記者が五回にわたって連載した玉井喜作伝。残念ながら私は、連載記事は直接みておらず、Web上で読んだだけなのだが、玉井喜作の数奇な運命を、ドイツ取材をしながら簡潔に紹介している。おそらく写真がたくさん掲載されていると思われるが、それがあるとまたかなりちがった印象になるかもしれない。
 ただちょっと不満を言わせてもらえば、せっかくのドイツ取材をもう少し記事に反映させてもよかったのではないかという気がする。
 ただ間違いなく多くの人たちに玉井喜作のことを紹介したという点での、功績は大きいし、是非読んでもらいたい記事だ。

3.「日独文化交流を支えた人々
  第2回 玉井喜作 日本人として始めてドイツ語月刊誌をドイツ(ベルリン)で発刊した私設ベルリン公使

  日独協会機関誌『かけ橋』第548号(2001年10月25日発行)
  発行 財団法人日独協会 TEL03−3265−3411

 日独交流の架け橋となった玉井の業績を紹介した記事。三ページほどの記事だが、おもに玉井の出した月刊誌『東亜』を中心に紹介している。『東亜』の目次の中から、めぼしい記事を紹介しているので、筆者は『東亜』を実際に見ているものと思われる。
 玉井を追っていくとき、私にとって空白地帯になったのが、ベルリン時代の彼の活動。ドイツ語ができなかったことが大きな障壁となった。もしも第三、第四の玉井喜作の評伝がでるとしたら、彼のドイツでの足跡を丹念に追ったものになってもらいたいと勝手に思っているのだが、こうしてドイツ語ができる人が玉井のことに興味をもち、実際に『東亜』のことをなどを読んで、調査をしてくれると、いろいろな発見がでてくると思う。その意味でこの記事は、ドイツ時代の玉井喜作を本格的に調査するための最初の試みといえるかもしれない。

4.泉健氏の『東亜』全目次

 これはまだ正式に発表されたものではないが、玉井喜作のひ孫にあたる和歌山大学教授泉健氏が、来年3月に大学の紀要に発表する予定で、『東亜』の目次を翻訳し終わった。先日このFDを送っていただいた。実は私も、この目次のことが気になり、いつもお手伝いしてもらっている大塚仁子さんに訳してもらっていた。これは泉氏にも提供していたのだが、氏は私もたいへんお世話になった亡くなられた父の巖氏との約束ということで、独自に訳された。
 専門は音楽学なのだが、玉井の血を引く泉氏が、このように本格的に玉井のことを調べはじめたのは、なによりも心強い。氏にとって今回の仕事は、玉井喜作研究への本格的な第一歩といえるかもしれない。
 『東亜』についての調査は、とても膨大なものになるだけに、ドイツ語ができる人たちが共同してすすめるのが一番いいと思う。その意味でこの目次の翻訳は、なんらかのかたちで公開していきたいと思っている。泉氏とも相談しながら、実現したい。
 泉健氏のホームページ 「日々あれこれ」

海外で活躍した日本人について書かれた著作について

 個別の作品は結構たくさんあります。それを全部紹介するのはとても無理なので、何人かをまとめて列伝形式でとりあげたものを紹介しておきます。巻末には、参考図書が掲載されているはずなので、それを起点にいろいろ追っていくのがいいと思います。

『海を渡った日本人』北上次郎編(1993、福武文庫)
  ここには玉井喜作の「シベリア隊商紀行」も一部収録されています。

『海を越えた日本人名辞典』(1985、日外アソシエーツ)
  絶版になっていますが、大きな図書館にいくと置いてあります。

『幕末明治海外渡航者総覧』(1992、柏書房)
 これも基本文献のひとつ。

『伝説の旅人 1841−1974 国境を越えた56の魂』(上述)

 なお産経新聞で連載中の『日本人の足跡』は、単行本として出版される予定です。この本が出れば、なかみの濃い、そして網羅的に集められた海を越えた日本人群像を知ることができるはずです。


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