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週刊デラシネ通信 今週のトピックス(2001.05.28)
「シベリア漂流」が推薦書に

シベリア漂流 かつて「週刊文春」で辣腕をふるった名物編集長花田紀凱を迎えて創刊された『編集会議』の第3号では、編集者が読むべき100冊という特集が組まれています。
 この中のノンフィクション部門で拙著『シベリア漂流』がとりあげられました。このコーナーは目黒考二氏と椎名誠氏が担当しています。『本の雑誌』の名コンビ、本の目利きのふたりの対談で、目黒氏がもはや忘れられようとしている拙著をとりあげてくれたのに大感激。
 ちょっと引用させて下さい。

 「どうして僕が、幕末から明治期にかけて日本に来た外国人と、海を渡った日本人の記録に興味を持ったのか。20年前に白水社の『日本人の冒険と探検』を読んだとき、ウラジオストックからベルリンまで冬のシベリア大陸を、明治期に1人で横断した日本人がいる、という記述があった。それが玉井喜作という民間人でした。あの時代、冬のシベリア大陸を横断した日本人は何人もいる。ただ民間人で渡って記録が残っているのは、玉井喜作以外にいないんですね。玉井喜作って何者なんだろうというのが興味の始まりで。 調べていくと、玉井喜作は明治の青年で、ドイツに渡って貿易をしたいと考える。アフリカ経由の船で行けばなんの問題もないのに、あえて白分に困難を強いる旅を課して、冬のシベリア大陸で隊商の群に入って渡る。明治30年ころドイツに渡って、ドイツ語でその記録を出版しました。それが日本で翻訳・紹介されたのが昭和33年。でも、翻訳されただけで、玉井喜作自身はあまり知られなかった。
 ずいぶん経ってから、『キサク・タマイの冒険』『シベリア漂流』という、玉井喜作の記録が出たんですね。『キサク・タマイの冒険」はやや小説化した本。『シベリア漂流』のほうがノンフィクションに徹底していて、おもしろいですよ。
 シベリアを横断する旅そのものが、壮絶極まる。隊商の群に入ってただソリにつかまっていたんです。歓迎されざる客ですから。零下何十度で眠くなって振り落とされたら、そのままソリが行っちゃう。疲れ切って最後は這ってやっと追いつくと、彼らはすでに休眠をとったあとですぐ出発。寝てる暇もなく、またしがみつく」

 玉井喜作の生き方の痛快さを最初に見出した目黒氏ならではの指摘です。
 ちなみにこのコーナーで拙著以外におふたりが推薦しているのは、次の九冊です。

『曠野の花〜石光真清の手記』石光真清 中央公諭新社
『文政十一年のスパイ合戦』秦新二 文芸春秋
『遠い崖アーネスト・サトウの日記抄』萩原延壽 朝日新聞社
『日本奥地紀行』イザベラ・L・バード 平凡社 品切れ重版未定
『コン・ティキ号探検記』トール・ヘイエルダール 筑摩書房
『信じられない航海』トリスタン・ジョーンズ 舵社
『無人島に生きる十六人』須川邦彦 講談社 絶版
『荒海からの生還』D・ロバートソン 朝日新聞社
『エンデュアランス号漂流』A・ランシング 新潮社

『曠野の花〜石光真清の手記』『文政十一年のスパイ合戦』『エンデュアランス号漂流』の三冊は、私も大好きな本です。
 『編集会議』6月号を一度手に取って見てみて下さい。


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