月刊デラシネ通信 > サーカス&パフォーマンス > パフォーマンス > 挑発する笑い

巻頭エッセイ
挑発する笑い

 最近ビデオになった『マン・オン・ザ・ムーン』という映画が気になってしようがない。人を笑わせるということは、どんな意味をもっているのか、笑いの世界で悪役を自ら引き受けるとはどんな意味があるのかなど、笑いを生業とすることの奥行きの深さを痛感させられた映画だった。
 ミロシュ・フォアマン監督、ジム・キャリー主演のこの映画は、70年代後半から80年代半ばまで、アメリカを騒がせた実在のコメディアン、アンディー・カウフマンの生涯を追ったものだ。三十五才という若さでこの世を去ったこの男は、笑いに殉じた破天荒な人生を送っている。
 スタンダップ・コメディアンとしてスタートしたカウフマンは、有能なマネージャーと出会い、テレビの連続コメディーに主役として抜擢され、一躍全米の人気スターとなる。しかしこの男、人気なんかクソ食らえ、自分がやりたい笑いにあくまでもこだわる。その結果、見るからに下品で、差別語、卑猥語を連発するまったくちがう自分の分身をつくったり、レスリングの世界に進出、女を相手に自らヒールを演じ、名だたる嫌われ者になったりと、メチャクチャな道を突っ走る。
 笑いの世界に悪役が必要なのか、彼にとって人を笑わせることはどんな意味をもっていたのか、いろいろと考えさせられることが多いのだが、はっきりしているのは、彼にとって笑いとは常に観客を挑発することから始まるということである。そのためにはどんなヤラセも厭わない。


 観覧日誌でも書いたが、2年半前から、毎月若手のパフォーマーを集めて、「コメディーナイト」というライブをプロデュースしている。ここでのべ20組以上の若いパフォーマーが演じているのだが、ちょっと最近気になっているのは、笑いの質が均一化していることである。それは心地良い笑いばかりを追い求めているからだと思う。それは観客にとって、そして演じている芸人自身にとっての心地よさだ。笑いには、狂気の笑い、毒を秘めた笑いなど、いろいろあってもいいのに、一様に心地良いものを求めているのがちょっと気になっている。
 そこで来年2月、客を思い切り挑発する笑いの世界をプロデュースすることにした。タイトルは『挑発』。そして私が選んだのは、ダメじゃん小出と、元気いいぞうというふたりの芸人である。人を食ったような芸名の通り、ふたりとも何か危ないものを内に秘めている芸人である。
 小出は、クラウンカレッジ一期生で、ジャグリングの達人、そしてストリートパフォーマーとしても第一人者でのひとりである。しかしこの男「コメディーナイト」では、頭の足らない電車オタクや、狂気じみた右翼を演じるなど、狂を宿した黒い笑いを見せてくれている。
 元気のいまの本業は、伊勢太神楽の獅子舞。しかし笑いの世界では長いキャリアの持主。毎月一回旅から東京に戻り、中野で歌のライブをしている。歌といっても、正統派の歌ではなく、差別、皇室、性、宗教などをテーマに、危ない内容の歌ばかり。
 こんなふたりに一緒にタッグを組んでもらって(先日初めて打ち合わせをしたのだが、タッグというよりは、バトルということになりそうな感じが濃厚)、思い切り客を挑発してもらいたいと思っている。火薬の臭いがたちこめる危ないステージが絶対に見れると思う。
 ちなみにふたりに『マン・オブ・ザ・ムーン』のことを聞くと、小出は、カウフマンは、人を笑わせることより、自分がやりたいことをやろうとした、自分のために生きた男じゃないかなという気がするなあと言っていたし、元気からは、これはまさに自分そのものだと思ったという返事が帰ってきた。
 この言葉から察するだけでも、かなり面白いライブができるのではないかと、思うのだが・・・。どうです? ふたりの挑発に乗ってみませんか。

ダメじゃん小出・元気いいぞう
バトルライブ『挑発』
日時 2001年2月1日(木) 19時半開演
場所 中野富士見町 plan B
入場料 予約2000円(当日2500円)
予約 ACC(03)3403−0561
またはクマのメール
人数と名前を知らせて下さい。
前売り料金で当日引き換えで予約を受け付けます。

チャン助さんによるこのライブの観覧レポートはこちら


ひとつ上のカテゴリーへ
巻頭エッセイ一覧へ
デラシネ通信 Top