月刊デラシネ通信 > その他の記事 > クマの観覧雑記帳

クマの観覧雑記帳

『茂山狂言会−唐相撲』

日 時  2002年2月14日午後7時−9時
会 場  国立能楽堂
出演者 茂山千作、茂山千之丞ほか茂山一門


 茂山狂言会を見るのは久しぶり。今回は茂山家が勢ぞろいした大曲『唐相撲』が演じられるとあって、会場は超満員。楽しかった、面白かった、そして感心した。
 一曲目の「三本柱」は若手四人による演目。皆声もよく透るし、着実に腕をあげている。世間では和泉元彌がすっかりスターになっているが、この茂山家の少年隊も、関西ではかなりの人気だと聞く。スター気取りしない、親しみやすさが、少年隊の魅力のようだ。
 二曲目の「察化」は、千作、千之丞のまさに息の合った、絶品、至芸といってもいい狂言。出てくるだけでおかしい千作の天然ボケは、さらに磨きがかかっている。
 都に人を探しにいった太郎冠者演じる千作が、都へ出たのはいいものの、名前を聞かずに、どこに住んでいるかもしれずに来たことに気づく。この場面のおかしさといったらない。まさに千作の天然ボケの真骨頂だろう。
 それに絡む千之丞の受けの見事さ。これはクラウン芸といってもいい。このふたりは、オギュースト(クウランのなかでも引っかき回し役)役の千作、ホワイトフェイスクラウン(サーカスの白塗り顔で、気品が高くちょっといじわるな役)の千之丞という風にも見えるかもしれない。こういう作品を海外のクラウンフェスティバルに出したら、間違いなく受けると思う。道化寸劇として、最高級のレベルまで達している。脇を演じるあきらも、貫祿がついてきた。
 最後の「唐相撲」は、この三代にわたる茂山家が勢ぞろいしためったに見れない作品。中国に渡った日本の相撲とりが、望郷の念にとらわれ、帰国を帝王に願い出る。それならもう一度相撲をとってみろということで、次々に中国の相撲取りが挑戦し、投げ飛ばされ、最後には帝王自らが挑戦して、やはり負けてしまうというたわいのないストーリーなのだが、見どころは多い。まず中国を舞台にしているので、セリフがでたらめな音だけで自立したものになっているので、その面白さがある。それと相撲をとるということで、身体の動きでおかしさを表現することになる。それが普段見る狂言の作品とはちがっている。
 野村家の同じ作品を見たことがあるが、その時は京劇の役者などもつかい、スピーディーなアクロバットを随所にはさんで、よりスペクタクルなものにしていた。
 茂山家は、スピーディーに演じるのではなく、こってりと一場面一場面笑いを楽しむような構成になっている。ひとりひとり若い役者が、アクロバッテックな動きに挑戦しながら、個々に、どこで笑いをとるかを工夫しながら演じている。そしてこれを全体でみると、身体芸のアラベスクとでもいえるような世界が現れるのである。
 中心となる日本の相撲取り、帝王、そして行司をかねる通辞を、茂山家の二代目にあたる中堅どころが、きちっと演じ、若手が挑戦する相撲取りを演じ、千作、千之丞が、控えにまわるという贅沢なキャスティングのなかに、いまの茂山家の層の厚さを見ることができる。
 久しぶりに大笑いして見、気持ちのいいまま会場を後にすることができた。ぜいたくな笑いの世界をたんのうさせてもらった。


目次へ デラシネ通信 Top 前へ | 次へ