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クマの観覧雑記帳

ヌーヴォー・シルク『ボヤージュ(旅人)』

観覧日 2004年8月28日午後6時開演 1時間40分公演
会場  札幌芸術の森 新野外劇場
出演  オキハイクダン(セバスチャン・ダルト・金井圭介)、パロデヴェル他ゲストアーティスト
演出  セバスチャン・ララーヌ


 5000人ぐらい収容できそうな野外ステージを最初に見たとき、びっくりしたことがふたつある。ひとつはほぼ8割の人で会場が埋まっていたこと、そしてもうひとつはステージがあまりにも貧弱に見えたこと。こうしたステージで、いわいるヌーヴォー・シルクがほんとうに出来るのかなということだった。
 開演して、MCが出てきて「ヌーヴォー・シルクにようこそ」なんていわれた時は、オイオイ大丈夫かと心配になったのだが、アクトがひとつずつ始まるにつれ、どんどん入り込めていけた。まわりはほとんど家族連れで、派手な空中ブランコやら、アクロバットを期待していて、最初のうちは、はっきりとアクトを見せないのに、とまどいも見せていたが、だんだん雰囲気に慣れてきて、すっかり楽しむ様子が感じられた。
 吊りものがやっとできるくらいのなにもないただ広い、照明の効果も出せないようなステージを上手につかっていた。ビール箱のような箱をいくつもつかって奥行き感をだしていたし、特に感心したのは、映像の使い方。小さなデジカメを、客席では見えない角度に設置して、それを背景壁に映し出す手法はなかなか面白かった。例えばシーソーアクロの足元を映し出したり、ハンドアクロの時にアーティストの顔を見上げるように映していた。またダンサーたちの影絵と映像とを組み合わせて、フィリップジャンティー風のイリュージョンタッチの仕掛けも楽しかった。場内からも歓声があがっていた。
 演出だけでなく、演技も見応えがあった。金井君と一緒にカンパニーをつくっているセバスチャン・ダルトの低空の大一丁ブランコのアイディアと演技は見事であったし、パロデヴェルのシーソーアクロも迫力があった。
 最初の頃は見方によっては、中途半端なアクトが多かったような気がするのだが、後半のアクトは、きっちり見せていたのには好感がもてた。身体をつかって、いままでにない多様な見せ方をすることに対しては、異議を唱える気はしないのだが、パロディーにしか見えないところもあった。

 それにしても、これだけのプロジェクトが日本でひとつのかたちになったことは、おおいに賞賛されることだろう。ヌーヴォー・シルクという名前がひとり歩きしている感じがしないでもないが、地元のダンサーやパフォーマーとコラボレーションをしながら、これだけのプロダクションをつくれたことで、新らたな道が切り拓けた、そんな手応えを感じているのではないだろうか。
 MCは余計だった、それと金井君が作業員の格好をして、間をつないでいたが、あれも邪魔だった。どこかであっと云わせて、変身して別物になるというやり方の方がよかったように思える。
 あまり期待はせずに見たのだが、とても楽しめたいい公演であった。


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