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【連載】モスクワスクラップ帳

第38回

7月の『論拠と事実』の26号から29号までの記事を紹介。

26号
 ムチの端の愛と死(1)
 ユーリイ・リュビーモフ『私たちが自分たちの知恵を向けるのはそこでない」
 ムラダシェフ「人生のプログラムの向こうにあるイースター島」
27号
 マリア・シャラポワの天の力」
 ムチの端の愛と死(2)
 絵を描く豚
 ミハイル・ジュバニツキイ「私はその時自由ではなかった、そしていまでも不自由なのだ」
28号
 何故ロシアのアーティストはアリーナから逃げ出さなければなはないのか
 私たちにタルコフスキイは必要なのか
29号
 ボリス・ポクロフスキイ「ドルが存在する限り、芸術は存在しない」


26号

ムチの端の愛と死(1)

 猛獣ショーの若き調教師エドワルド・ザパーシヌィへの独占インタビュー。有名な動物調教師の家系ザパーシヌィの血をひくエドワルドは、6歳の時に兄のアスコリドと一緒に猛獣の檻に入り、16歳から猛獣ショーの調教師となる。2回にわたるインタビューの一回目は、ショーの前に恐怖を感じないかとか、一番危ない動物はという質問に答える。

 次号にも続くこの大型インタビュー企画。エドワルドとアスコリドの2人の調教師は、2年前か3年前の『ボリショイサーカス』に出演していたと思う。ふたりともなかなかのイケメン君である。この記事が契機になり、28号に現在のロシアサーカスの最大エージェント『ロスカンパニー』スキャンダルが明らかにされることになる。

ユーリイ・リュビーモフ『私たちが自分たちの知恵を向けるのはそこでない」

 ダガンカ劇場演出家リュビーモフのインタビュー。この演出家の書斎の壁には、劇場を訪れた著名人のサインが書き込まれている。最初に書いたのは詩人のヴォズニェンスキイだった。このなかではプーチンが書いた「時間でもない、空間でもない、あるのはひとつタガンカの熱狂だけ」というサインもある。
劇団員を希望していたアンドロポフの子供を拒否したときの思い出なども語る。

 まだまだ元気なリュビーモフ。彼もソ連時代の記憶をそろそろ語り遺さないという思いになっているのかもしれない。

ムラダシェフ「人生のプログラムの向こうにあるイースター島」

 「ついに私たちはシャンバラヤへの伝説的なドアを見つけた」という書き出しではじまる。イースター島に探検隊を派遣するにあたって、ムラダシェフが、チベットのカイラスの反対にある地点から666qのところにある、イースター島に注目。その関連性についてインタビューに答える。

27号

マリア・シャラポワの天の力

 ウィンブルドンで優勝した17歳のシャラポワが栄光をつかむまでの道のり。シベリアの田舎町で生まれたマリアは、まもなくロシア南部のソチに引っ越し、ここでテニスプレイヤーのエフゲニー・カフェニコフと出会う。これが彼女がテニスという天職を得るきっかけになる。このあとモスクワにでて、さらには世界のテニスプレイヤーのメッカ、アメリカへと移住することになる。アメリカにはマリアと父親のふたりで向かう。この時ふたりは500ドルだけしか所持金がなかったという。

 この決勝戦は見ていたが、マリアはなかなかはしたたかというか、クールな、とても17歳にはみえないふてぶてしさがあった。ただ勝利を決めた瞬間、喜びを爆発させ、観客席にいる父親のところに駆け寄ったとき、そして満場の観客の前で携帯でお母さんに電話しようとした時は、可愛らしい17歳の女の子になっていた。ちょっとマークだな。

ムチの端の愛と死(2)

 前号に引き続き、猛獣ショーの若き調教師エドワルド・ザパーシヌィへの独占インタビュー。若き調教師は、雄弁にサーカスでの動物調教について語る。最後に「父であり、有名な人民芸術家である動物調教師のワリテール・ザパーシヌィは、私たち兄弟を正しく調教した。私たちはサーカスで働き、自分の職業を愛している。力がある限り、アリーナを捨てることはない。もちろんほんとうにサーカスで有名になることは、簡単なことではない。しかしやめようと思えば、それで終わりだ。私たちの演芸界には素晴らしい歌手がたくさんいる。しかし彼らの有名さの度合いと、例えばオレグ・ポポフとかスラーバ・パルーニンと比べることはできないだろう。彼等はロシアだけであく、世界で通用する。このためにもたくさん、たくさん働けねばならないのだ」とサーカスに賭ける思いを明かす。
しかしこのふたりの素晴らしい演技はもうロシアでは見れなくなるという。彼等は海外での仕事の道を選び、もう一生帰って来ないことになりそうなのだ。これには、ロシアサーカスのあるスキャンダルが関係している。これについては来週号で詳細に報告することにする。

絵を描く豚

 ヒュルン・マレービッチと名づけられた豚が、チミリャーゼフ美術館で開催された「絵をかく動物たち」というイベントで、絵を描く写真

 象が絵を描いたり、たしか堤さんところのチンパンジーも絵を描いていたような気がするが、動物のもつこの潜在能力には、もしかしてすごいものがあったりするかもしれない。

ミハイル・ジュバニツキイ「私はその時自由ではなかった、そしていまでも不自由なのだ」

 ジュバニツキイは、私たちに真実を語れる人だ。彼が出演した「国の鍵番」のなかで、放映できなかった部分を紹介する。
そのなかのひとつ。「私たちの民主主義−それは一度に三つの明かりがつく信号機だ」

28号

何故ロシアのアーティストはアリーナから逃げ出さなければなはないのか

 エドワルド・ザパーシヌィ「私たちのアリーナは、まったくの精神病院だ」という現在のロシアの大手エージェント「ロスカンパニー」の総裁で、自分たちの伯父にあたるミスチラス・ザパーシヌィの運営方法に対する告発。彼の暴政によって素晴らしい芸は、いまや消えようとしている。これに対するミスチラス自身の反論。またマクシム・ニクーリンの「いまロスカンパニーがしていることは犯罪そのものだ」という意見も紹介。

 ロスカンパニーは、かつてのソビエト時代のサーカス公団を踏襲した半官半民のエージェント。ザパーシヌィが総裁になってからいろいろ芸人たちから噂を耳にしてはいたが、ここまで独占していたとは。ある芸人はサーカス公団時代よりもひどくなっていると言っていたが、こんなスキャンダルになっているとは、しらなかった。それにしてもこうした暴政により、動物芸がなくなるというのは、とても問題だ。一刻も早く、総裁が代わることを望みたい。

私たちにタルコフスキイは必要なのか

 タルコフスキイ家族が暮らしていた住居を映画館もふくめたタルコフスキイ博物館にしようというプロジェクトがスタートして数年あまり。経済的な見通しのないまま、このプロジェクトは結局頓挫してしまった。

29号

ボリス・ポクロフスキイ「ドルが存在する限り、芸術は存在しない」

 最近プーチンより国家賞を受けた演出家ポクロフスキイは、今年92歳。まさにギネス級で現役で活躍する演出家のインタビュー記事。

 タガンカのリュービモフも高齢だが、このポクロフスキイは、スタニスラフスキイやメイエルホリド、プロコフィエフや、ショスタコービッチとも仕事したことがあるという、まさに化石のようなおじいちゃん。不遇時代が長かったというが、こうした信念が、支えてきたのだろうと思う。立派なものです。


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