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神彰追跡レポート1 『幻談義』をめぐって

 神彰は、『怪物魂』と『天機を盗む』という二冊の自伝を書いていますが、いずれもゴーストライターが書いたもので、彼本人が書いたものではありません。唯一彼が自分で書いたのは、19○○年○月から雑誌『せきえい』に連載された『幻談義』という連作エッセイです。取材の過程で、このことを知った私は、『せきえい』編集長安井努氏と連絡をとり、この連作エッセイ『幻談義』を自費で復刻しようとしている人が函館にいることを知りました。この人は神彰の小学校時代の同級生の佐藤富三郎さん、二〇〇〇年五月に神彰の書という展覧会を主催し、この時に自ら復刻した『幻談義』を配布していたのです。私は函館を訪れ佐藤氏にお目にかかり、小学校時代の思い出話や、神彰の晩年、ふたりで山形と青森を旅したときの思い出、最後に鎌倉の神の家を訪問した時の思い出を聞かせてもらいました。
 この時に立待岬にある神彰の墓を見てきました。太平洋を望む丘の上にたつ墓は、石川啄木の墓のすぐ近くにあります。
 函館の町を歩きながら、そして復刻された『幻談義』を読み、佐藤氏の思い出話を聞くうちに、いままで漠然としていた神彰のイメージが、なんとなくではありますが、はっきりとした像を描くようになりました。
 『幻談義』は、レニングラードフィルを呼ぶために、狸穴のソ連大使館を初めて訪ねた時の思い出から始まり、放浪画家長谷川利行のこと、さらにはこの画家を発掘した、神の友人の画商木村東介の思い出などが、自在に語られています。三回目以降は、かつて函館に実在していた萬平という乞食詩人を主人公としたフィクションになっています。フィクションとはいいながら、ここには神の人生と重なり合う部分も多く、とても興味深い内容になっています。
 佐藤富三郎氏は、ひとりでも多くの人に神彰という男がいたことを知ってもらいたいということから、この『幻談義』を二千部復刻自費出版しています。書店では扱っていません、興味のある方は、デラシネ・ショップを通じて入手して下さい。


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