月刊デラシネ通信 > その他の記事 > クマが書いた本 > 『シベリア漂流 −玉井喜作の生涯−』
新潮社 / 1998年 / 1,800円(税別) / 326P / 20cm / NDC:289.1 / ISBN:4-10-426601-9
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序 章 シベリアの白い月
明治の快男児・玉井喜作/『キサク・タマイの冒険』/旅の伴侶−泉巌氏との出会い/故郷に眠る玉井喜作の日記
第一部 シベリアへの道
第一章 シベリアに憑かれた日本人
福島中佐のシベリア横断/シベリアに憑かれた男たち/世界最悪の道−シベリア街道/
シベリアのティーロード/夏のシベリア街道/流刑街道
第二章 イルクーツク漂流譚
バイカルの夜明け 無一文からの出発/イルクーツクの日本人/救世主プリクロフスキイ/
迷走の始まり/椎名との再会/極貧生活のはじまり/ひとつの決意/ロシア正教徒椎名保之助/
義兄弟の契り/ウラジオストックへのSOS
第三章 百年前の漂流民
ウラジオストック投獄事件/冬の訪れ/若宮丸漂流民との出会い
第二部 冬のシベリア大横断−イルクーツク〜トムスク隊商の旅
第四章 別れと旅立ち
旅立ちの朝/シベリア最初の一日/寒さとの闘い/シベリアの挫折者/コサックの襲撃/椎名への手紙
第五章 シベリアの中の日本
猿回しと子守唄/シベリアの旅人たち/隊商の余計者
第六章 シベリアで生きる人々
下痢の苦しみ/野獣−ロシア人/エニセイを越えて/ロシアの女たち
第七章シベリアの大晦日
盗賊襲撃/零下五〇度の寒さ/大晦日の誓い/世界五ヵ年漫遊計画/トムスクまで
第三部 遥かなるウラル−ベルリンをめざして
第八章 シベリアのオアシス−トムスク滞在記
トムスクのクリスマス/悪夢再来/トムスク大学の人々/マグヌッソンとプレイスマン/
トムスクのなかの日本/シベリアのオアシス/ジャーナリスト修業/もうひとつの自由時間
第九章 ウラルを越えて
さらば、トムスク/ウラルを越えて/一路ベルリンへ/ベルリン到着
第十章 ハンブルク憂愁
ハンブルク貧乏生活のはじまり/淋しい病気/玉井の下半身/旅を失った男/再出発
第十一章 ベルリンの再出発
ベルリンの春/日清戦争余波/ジャーナリストとしてデビュー/旅の終わり−ベルリン私設公使への道/
遥かなるシベリアへの思い
第四部 「東亜」の志
第十二章 東からのメッセージ
ドイツ語月刊誌『東亜』創刊/ベルリンの広告代理店『東亜』/総合月刊誌『東亜』/『東亜』−反黄禍のメッセージ
第十三章 もうひとりのシーボルト
ひとつの発見/もうひとりのシーボルト/シーボルト父子のみた日本/『東亜』とシーボルト
第十四章 ねむれ伯林
ベルリンの私設公使/玉井の日露戦争/もうひとつの日露戦争−玉井と明石工作/死の序曲−娘の死/
玉井死す/残された者たち
終 章 海峡の町下関から
泉氏の遺言/海峡の町/旅の出発点下関
あとがき
参考文献
明冶二十六年十二月、一人の日本人男児が零下四〇度のシペリアの氷原を旅しようとしていた。その冒険はまさに命を賭けたものであった。
彼の名は玉井喜作。この想像を絶した約三十日間のシペリアの旅は、彼の人生をすっかり変えてしまったということができる。ドイツ語ができた彼には、大学教授の席が待っていたのだが、そんなものに目もくれなかった。
襲いかかる寒さと飢えと貧窮は、何度も彼に挫折感を抱かせ、死を思わせたか知らない。でも、そのつど鉄の意志によって、そして温かい援助者たちによって、シペリアを横断し、ついにペルリンに到着する。
ペルリンでの活躍はすぱらしかった。「東亜」という雑誌を発行し、そこにシーポルトの長男の論文を発表させたりして、評価を徐々に高めていった。またペルリンを訪れた者のほとんどが玉井の世話になるという、私設大使の役目を果たしたりした。享年四十歳。今、冒険家、ジャーナリストであった玉井の生涯が見直されようとしている。
明治半ば、厳冬のシベリアを単独横断し、ベルリンでジャーナリストとして活躍した玉井喜作。その破天荒な生涯を未発表の旅日記やノート、手紙などを基に追った伝記ノンフィクション。
ウラジオストックからハバロフスク、モスクワ、ベルリンに至る二万キロ、一年三ヵ月にわたる無銭旅行。その間、玉井は監獄に留置されたり、盗難に遭遇したり、過酷な体験を重ねる。それは、ドイツ語教授というエリートから事業に失敗、挫折した玉井にとって「生きることへの猛烈な渇きをいやすための手段だった」と著者は記す。
シベリア横断の日本人としては江戸時代の大黒屋光太夫らの陰に隠れた玉井喜作の生涯に脚光を当てている。
慶応二年、山口県生まれの早熟な玉井は、十五歳で上京しドイツ語を学ぶ。翌年、帝大予備学校に入学、弱冠二十二歳で札幌農学校教授という驚くべき経歴を捨て、明治二十五年、艱苦の末に横断に成功する。四十歳で客死するまで、祖国のためロシアの情報を収集したり、雑誌「東亜」で反黄禍論を展開するなど、明治男の面目躍如
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