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【連載】ダメじゃん小出の社会のつまみ食い

第1回 平壌劇場

2004.06.08

 政治家・スポーツ選手・芸能人など、世襲が我が物顔な今日この頃。
 親が有名なら、馬鹿でもなれる2代目だが、群を抜いて凄いのが、
近くて遠い国の将軍様である。
 父親が抗日パルチザンから成り上がり、一代で粛清の山に築き上げた金王朝を
将軍様は確実に継承したのである。
 父の敷いたレールに乗り、今まで側近から自分のキャリアや人格を否定される事などない、
密告・盗聴・尾行・強制労働、家族も同罪、反対分子の行き届いた徹底管理。
主席宮はさぞかし住み心地がいいのであろう。

 そんな偉大なる将軍様は、
砂漠の灌漑事業に失敗し泥沼で右往左往している帝国主義者を尻目に、
5月22日久しぶりの平壌劇場で緻密な舞台をしたたかに演じ、
島国の観客の期待を裏切る名演技をやってのけた。
 この芝居のお陰で永田町の国民年金未払い「与党野党泥仕合」を閉幕へと追いやった。
 その点、将軍様の住む国はユートピア(楽園)なので、年金の心配などいらない、
明日をどう生きるかだけ考えていればいいのである。

 そろそろ本題に入ろう、今回の5.22.平壌劇場、相手役は勿論この人
道化師・小泉、そして脇役に喜ばせ組・外務官僚のみなさん。
 一昨年9月以来の外交音痴・平和ボケが再演されたのである。
 包丁1本晒しに巻いて威風堂々出迎えると思いきや、
自ら再び訪朝するんかい!
 外交事例を無視した鮮烈なオープニング、颯爽と政府専用機で羽田を飛び立つ、
小泉を筆頭にした売国奴たち。
 ボーナスマイルはあるのか? 浅はかな期待に青いリボンを胸に楽園へ・・・。
 しかも今回将軍様は、道化師小泉に平壌でお出迎えとお見送りの細部に渡る面子を重視、
徹底した演出に加え、会談のシーンでは席をいきなり起つといった脅しの演技も秀逸であった。
 台本どおり午前中の会談で自分は舞台を降り、午後は小泉が赤い白人を
説得・交渉するシーンに1時間以上の時間を割くという余裕さえ見せた。

 この粋な憎い外交演出、将軍様の思いやりのあるお人柄を垣間見た瞬間だった。
 道化師・小泉に対する今回の報酬は拉致家族5人の帰国。
 ジョン・純と呼び合う親しい間柄、それでは申し訳が立たぬとサムライ魂
小泉ら面々は今回出演のお礼に、コメ25万トン・医療品という名の現金自動支払機
1000万ドル相当の国民の血税を献上した。

 そして友好のシンボル、万景峰号は新たな船出に重い錨を上げ、
拉致被害者家族は苛立ちの怒りを上げる新潟港、
白い粉といらなくなった家電製品等の生活物資の物々交換。
 シュプレヒコールと北への餅撒きが、国際社会からある意味嘲笑されている
両者はどっちが舵取りを誤ったのかは、今後はっきりしてくるだろう。

 ユートピアに自給自足は必要ない、だって将軍様が興行で稼いでくれるから。
 次回作発表のタイミングとしては永田町住民が国民年金未納より発覚を恐れている、
勤務実態が無いにも拘らず企業に厚生年金を肩代わりしてもらっていた事実が表面化し、
そして楽園なのに平壌中心部の配給が滞り
何が起こるか判らない、お互いの地位が危うくなったら外交を延命装置とし
再び都合いいように私物化しましょう。
 死んだはずの人間が生き返る「安否不明者奇跡の生還物語」なんてタイトルの
お芝居の幕が開くかもしれません。

 将軍様に美味しいおコメを、どうか冷夏になりませんように・・・。
 仕事で移動中の上越新幹線、車窓より田植えを終え青々した緑眩しい、
梅雨入り前の越後平野を見て想う。


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