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週刊デラシネ通信 今週のトピックス(2001.03.27)
ロシアサーカスの反抗
−モスクワ・ニクーリンサーカス総裁マクシム・ニクーリンは語る−

 ヌーボーシルクの席巻、シルクドゥソレイユの世界進出、旧ソ連・東欧の芸人の流民化という大きなうねりの中、偉大なるサーカスマンであった父、ユーリイ・ニクーリンの後を引き継ぎ、モスクワ・ニクーリンサーカスを守るマクシムが、現在のサーカス界の現状について、そして今後の展望について、モスクワの週刊誌『論拠と事実』(2001年3月号)の中で語っています。抄訳ですがここで紹介します。
 ある意味ではいまのサーカス界の流れと逆行する発言は、むしろ刺激的といえるかもしれません。


 現在サーカスの流行とは何なのか? 複雑なテクニックなのか、それとも素朴なものか、これについてはすぐには答えられない。しかしことサーカスの世界は、現代の流行とは背反するものが、あるように思える。安定志向、ノスタルジア志向、あるいは古いものへの憧れとかである。生活は、早いテンポで変わっているが、多くの人々は、この変化に追いつけないでいる。特に中産階級の人々たちがそうである。サーカスはこうした人々のためにある。これは大衆芸術なのである。だからサーカスで新しいアイディアを考えることは難しい。いま大事なことは、何をするかではなく、いかにするかということではないか。
 サーカスの基本は、技だ。しかしいまは俳優のようにふるまうことが一番大事なことになっている。キャラクターが必要とされ、演出家や音楽、照明がなくてはならないものになった。しかしサーカスでは少し遅れていることも必要ではないだろうか。どうしてか。人が町を歩いていて、突然サーカスを見たくなるということは考えられない。サーカスに行くためにすべてが準備され(実際に開演前に窓口に入場券は残っていないのがあたりまえだ)、そして子どもがやってくる。サーカスは家族のための芸術なのだ。子どもたちはいつもサーカスに行く準備をしている。
 レトロに走ったもの、保守的なものを見せようとは思わないが、新しいアイディアや実験はそんな大事なことではない。例えばカナダのソレイユは、新しいサーカスの見本となっているようだが、私から見れば、これは本当のサーカスではない。現代のテクノロジーとショービジネスが合体したものだ。照明、音響、装置など途方もなく高いものをつかい、効果をあげるショーなのだ。そこに子どもたちは行かない。理解できないからだ。これは大人のためのもので、サーカスの要素をとり入れたショービジネスなのだ。 私たちのサーカスは、独立採算でやっている。書類上では商業組織になっているが、商業に従事しているわけではない。全ての利益は、組織の発展のために利用される。つまり番組づくり、道具、コスチュームをつくるためにあてられている。私たちは、私たちの名前をつかって外国で公演するアーティスト集団を持っている。プログラム毎に招聘するアーティストもいるが、いまのところは旧ソ連の人たちに限られている。外国からも呼びたいのだが、ギャラが高いので無理だ。出演者のギャラは、すべて入場収入から出されている。高いギャラを払うために入場料をあげたくないのだ。
 いまふたつのプロジェクトが進んでいる。ひとつは「アイスサーカス」のグループをつくることで、これはフィンランドから必要な装置を購入し、来シーズンから公演することになっている。
 もうひとつは、テントだ。私たちのサーカスには、地方から見にくる人がたくさんいる。私の知人の中の一人は、まだサーカスがあるんだと言っていたくらい、地方でサーカスを見ることは困難になってきている。地方では私たちの名前を勝手につかって、三流レベルのグループが公演している。住民たちはこのひどいショーを見て、がっかりし、ロシアにサーカスはなくなったと思うようになっている。私たちは、いま地方のプロデューサーと提携して、今年には三つのプログラムをロシア各地で回したいと思っている。そのためにテントがどうしても必要なのだ。私たちは大きなサーカス団とは関係なく、必要に応じて自分たちのサーカスを見せたいと思っている。
 海外で個人が契約をできるようになったとき、ほとんど芸のない芸人たちが、「モスクワサーカス」とか「ロシアサーカス」と名乗り、契約した。ギャラも下落してくる。すばらしい番組よりも、10の番組ができる五人組の方がいいと思われるようになった。そして彼らは、わずかな金のためにあくせくと働くことになるのだ。そしてロシアサーカスは衰退したという噂が流れた。当面私たちは、ロシア国内を主な活動場所と考えている。アーティストもポーランドやイタリアで貰うようなギャラを支払えば、国内で働きたいとおもっている。ここで働ければ、家にも帰れるし、なんの問題もない。その時私たちは海外で下落しつつあるロシアサーカスの商品価値をあげることができるはずだ。


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