月刊デラシネ通信 > その他の記事 > クマの観覧雑記帳

クマの観覧雑記帳

『コックと卵の鬼ごっこ−これも愛のかたち』

日 時  2002年2月22日午後6時40分−7時10分
会 場  晴海トリトンスクエア
出演者 重森一とマキ


 去年から重森がやっている卵ネタ。卵のかぶりものをかぶって、店内を歩く回遊型パフォーマンス。小樽のビアホールでデビューした時から見ているので、その後の展開がどうなっているか気になっていたのだが、去年できた晴海の新しい強い商業施設で、2月の金曜日に2回公演しているというので、見に行った。今回はカバBにも出演しているダンサーのマキと一緒にやるというのも、興味があった。
 白装束で卵のかぶりものをして歩くというだけで、奇怪なのだが、この男ただ歩くだけでは満足しない。プラコメやカバBで、重森の演じたパフォーマンスのひとつに語りものシリーズがある。童話や宮沢賢治、さらには必殺仕事人シリーズに題材をとり、独自の世界をつくるのだが、重森という存在感のある肉体に、ドラマが宿るのが、魅力であった。この卵ものでも、自らの肉体をオブジェとしながら、どこかにドラマをつくろうという意志が感じられた。小樽でやったころは、空飛ぶ鳥に憧れた卵が殻を破り、飛ぼうとするのだが、鳥は鳥でも、鶏になったというのがオチになっていた。
 今回は、コックになったマキをパートナーとし、また不思議なストーリーをつくった。基本は卵が、1階から3階まで回遊するのだが、3か所マキと出会うポイントがあり、そこでふたりが絡む構成になっている。この絡みが面白かった。マキが生き生きと動いている。さすがダンサーのことはある、切れ味がある動きだ。カバBで、どうやって笑いの世界をつくるか、なにか踏ん切れなくていたのが、ここでは吹っ切れている。アグレシブに突っ込んでいて、コミカルな動きもさまになっている。マキも素顔ではなく、黒の面をかぶっている。これもいい工夫だと思う。
 重森の照れたり、子供に泣かれて困ってしまうしぐさもさまになってきた。歩き方もただ歩くのではなく、ひとつのフォルムをつくりだしているのもいい。
 ふたりの絡みを見ていると、サブタイトルにもあるように、変わった愛の断面を描いているのが、面白い。オブジェになって愛を描写すると、無機質な風景が描かれるように思えるのだが、これがなかなかウェットな世界になっている。
 ひとりの卵よりずいぶんと膨らみができている。
 がトリトンというこの商業施設のなかで、うまくはまっているかというと、そうでもない。はまってもいいはずなのだが、はまっていないのだ。異物になっていないし、溶け込んでもいない、なにか中途半端なのだ。これはやる側の問題ではないのだろうが、ちょっと気になった。
 ただ面白い試みなのは間違いない。
 もっともっとふくらませることができると思う。


目次へ デラシネ通信 Top 前へ | 次へ