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クマの観覧雑記帳

ダメじゃん小出ソロライブ 『負け犬の遠吠えVol.1』

日時 2月26日 午後7時半〜8時40分
会場 planB


 超満員のお客さんの前で、小出もいつになくスピード感ある、テンションの高い舞台を見せてくれた。最初から最後まで、ドカン、ドカン笑いをとる力量は、たいしたもんである。途中から笑いにドライブがかかって、さらにパワーを発揮するような感じだ。爽快感さえ感じた。ソロライブの一回目は、大成功だったといえよう。
 今回は、いままで受けていた天皇明仁ネタや、右翼ネタをあえて封印し、時事ネタだけで構成した、しかもオール新作。そこにも底力を感じた。
 今回の公演のネタは、下記のとおり。

1. オープニング かるくジャグリングしてみせる。
2. 政党マッチレース 政党を茶化したしゃべくりコント。このまくしたてるようなスピード感に磨きがかかった。
3. THE 自由民主党 亀井静香と鈴木宗男のふたりをフィチャー、物真似しながら、政界を茶化す。ふたりのそっくりさんの似顔絵を操るところに、新味が。
4. イ・ジ・メ? 日本からの援助金をもらうだけもらって、文句ばかりを言っている中国を揶揄。ちょっと驚いたのは、観客の反応。共感を呼んでいると思われるリアクションがかなりあったこと。
5. ニュース・天気予報 世界地図をつかっての天気予報で、今度は世界情勢を曲説していく。このへんでドライブがかかってきた感じで、歯切れのよい寸評と風刺がパワーアップする。
6. プロジェクトX クジラの陸揚げを、クジラがモノローグで物語るのを、プロジェクトXがとりあげるという構成にした。素晴らしい着眼点と、展開の見事さ。間違いなく今回一番の作品だった。
7. テレビショッピング 介護商品をテレビショッピングで売るのだが、結局介護するのではなく、早く死なせるのを目的にしているブラックネタ。
8. 千と千尋の偽装隠し 千と千尋にかけて、雪印の偽装工作を揶揄する。

 どれも外れのない番組だったが、プロジェクトXが秀抜だった。新境地を開いたといえるのではないだろうか。捕鯨もなく退屈していたクジラが、一致団結して、日本人に食べてもらおうと上陸をめざすというこの発想の馬鹿馬鹿しさ。クジラのモノローグと、プロジェクトXのナレーションを絡めるという構成の見事さ。
 政界ネタは、ある意味では現実の方がはるかにシュールなわけで、そこをどう切り取るかというのは、難しいところがある、しかしこのクジラもののようなアングルは、いままで小出にはなかったナンセンスな笑いを切り取ってみせることにもなったと思う。
 ひとつだけ心配なことは、観客の問題。アンケートで10人ぐらいの人が、今度は新聞をよく読まなくちゃと書いてあったのに、少しびっくりした。どこか本末転倒しているような気がする。新聞を読まなければ、笑えない、じゃ笑うために新聞を読もうというのはちがうのではないだろうか。
 贅沢なことかもしれないが、これだけ来てくれたお客さんとこれから5回一緒に場を過ごすことは、いま小出がやろうとしていることに、かえって悪影響になるのではないかという気がする。舞台と客席で意味や、笑いを共有しようというのではなく、どこかで断絶していたほうが、小出はもっと大きくなるような気がする。時事ネタに客席がシーンとすると、小出が「置いてくぞー」と何度か言っていたが、あの姿勢をこれからも維持できるかというのが、問題なのかもしれない。


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