月刊デラシネ通信 > その他の記事 > クマの観覧雑記帳

クマの観覧雑記帳

テアトロフィーア『無学歴』

出演:テ・アトローフィーア(TE ATROFIA)
公演日:2004年1月10−13日(観覧日 1月13日)
会場:こまばアゴラ劇場
公演時間:1時間40分
入場料:2500円


 スペインのカナリア諸島を本拠地とする2人組のクラウンのサイレントコメディー。カナリア諸島は、若宮丸漂流民が、立ち寄ったところ、その意味でも親密感を感じていたし、カナリア諸島という島を活動の拠点としていることで、エキゾッチックなクラウニングが見れるかもしれないという、どちらかというとちょっと見てやろうかというノリで見に行ったのだが、なかなか期待外れというか、予想外に面白かった。エキゾチックという点では全くの期待外れ、ヨーロッパのクラウニングの王道をいくグループだった。
 「クラウニングにとって大事なことは、困難な状況をどうやってつくりだし、それをどう克服するという過程をどう面白く見せるのか」と言っていたのは今度フール祭にも参加するBPズームだったが、この2人組はこのクラウニングの文法に見事にはまったクラウニングを見せてくれた。レストランでビールを注文した客とウェイターという設定で、延々とビールをどうしたら飲めるのかというギャグを演じる馬鹿馬鹿しさ、まずどうやって栓を抜くから始まって、やっと抜けたら客が待ち構えてだしたジョキーに、ビールではなく栓を入れるとか、こういった馬鹿馬鹿しいネタをくどいまでに演じるこの2人のクラウンの実力はすごい!
 このあとなぜか、車を運転するドライバーと、その後ろの席にいる客という設定で、ネタを演じるのだが、ここでは、クラウニングのもうひとつの大きな文法のひとつ、飛躍と転調を思い存分に見せてくれる。意外性というやつだ。ここでは客もステージにのせて、なにかの拍子に萎んだ風船になってしまったドライバーに、空気を入れるという演技をさせたりという絡みもある。古典的なギャグを堂々と演じきり、それで笑いをとるという力量はたいしたもんだと思う。BPズームのステージと同じような匂いを感じる。
 彼らのステージは、クラウニングの文法ともいえる、繰り返し、幼児性、転調、意外性をしっかりと構成の核にしている。これに感心させられた。
 しかも彼らのステージには、まったく音楽がない、これも見事だった。このところ音楽過剰のクラウニングばかり見せられていたので、音楽をまったくつかわないというこの潔さに、筋金入りのクラウンとしてのテ・アスローフィーアの実力を見せつけられたような気がした。たえずふたりは擬音を発しつづけている。意味のない擬音、例えば舌打ちとか、音真似とかを身体の動きと同じように表現の手段としてつかっている。これは音楽に頼りすぎる日本のパフォーマーたちには、よく見てもらいところだと思う。
 いや、面白かった。心から拍手を送りたい。


目次へ デラシネ通信 Top 前へ | 次へ