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【連載】モスクワスクラップ帳

第69回

 デラシネ通信発刊当初からの連載コーナーである「モスクワスクラップ」も3月一杯で終了になります。講読していた「論拠と事実」の購入をやめることにしたからです。いまのロシアのマスコミのほとんどが政府筋、つまりプーチンの息がかかっており、この「論拠と事実」も、毎号精読しているわけではありませんが、プーチン側に立った記事が数多く見られます。とくにリトビネンコの暗殺事件に関する報道は、政府側の意向に沿うかたちのもので、かなり嫌な気になりました。年間購読料が負担になったということもあるのですが、やはりこれ以上講読するのは結果的にプーチンを間接的にでも支持することにもなるということで、3月一杯で講読を打ち切ることにしました。
 政府系ではないマスコミ誌を読むということも考えていますが、いまのところまだ結論が出ていません。とにかくこのコーナーも今回を含めてあと3回ということになります。

2008年1月のモスクワの週刊誌『論拠と事実』からスクラップした記事。

2008年1月1−2号
 北野たけし−残酷さとユーモアは隣り合わせ
 ザパーシヌィ兄弟サーカス
2008年1月3号
 ビソツキイに捧げるコンサート
 我々の観客は腰抜けなどではない
 未開は文明より勝る?
2008年1月4号
 そしてビジネスマンもアリーナに進出する
 人を寄せつけない高み


 

2008年1月1−2号

北野たけし−残酷さとユーモアは隣り合わせ

まもなく北野武の13本目の映画「それぞれには自分の映画がある」が公開される。
これは「映画についての映画」であり、かつてフェリーニがやっていたように、映画のためのテーマを探す監督自身が主人公の映画である。
ベネチア映画祭の時、我々は北野武とインタビューすることができた。
あなたの映画には、いつも残酷なものがあるかと思うとユーモアがあったりしますがという質問に対して「人間世界のなかでは残酷さとユーモアがいつも隣り合わせにある。状況が深刻であればあるほど、さらにその中にある喜劇的な要素を隠そうとする。例えば葬式、この儀式のなかには少なからず滑稽なものがある」と答える。「実現できないような夢とかありますか」という質問には、「人生に縛られたくない、安楽に死ぬことです。昔はフェラーリを買いたいとかありましたが、物的欲求というものは、手に入るとすぐに落胆することになる」。 「息抜きは」という質問には、映画とは関係のない友人たちと一緒に座って、酒を飲んで、馬鹿話をすることです。

ロシアでは根強い人気を誇るたけし。外国人相手ということもあるのだろうか、わりと本音に近いことを言っているような気がする。

編集注:「それぞれには自分の映画がある」は、カンヌ映画祭開催60周年を記念して、映画監督35人が各3分ずつの短編映画を集めた「Chacun Son Cinema(英題:To Each His Own Cinema)」のことだと思われます。北野武監督はこれに「素晴らしき休日」という作品で参加していますが、彼の13本目の映画は「監督・ばんざい!(英題:GLORY TO THE FILMMAKER!)」というタイトルです。

ザパーシヌィ兄弟サーカス

イベント案内の記事:1月10日〜13日
有名な調教師の兄弟が、正月休みのために、スペシャルプログラムを編成して公演。虎とライオンのショーの他に、アクロバット、ジャグリング、マジックのショーがある。

調教師のプリンス、去年のスターボクシングでも優勝したイケ面の調教師は、ロシアでは知らない人がいない人気者。手打ちで公演した方がもうかるのだろう。

 

2008年1月3号

ビソツキイに捧げるコンサート

イベント案内の記事:1月19日 音楽の家
さまざまなミュージシャンが集まり、ビソツキイの歌を歌うほか、彼に捧げるためにつくられた曲も演奏される。

生誕70周年を迎えるビソツキイ。相変わらずの人気である。

我々の観客は腰抜けなどではない

ロシア映画は年々制作本数が増えている。2006年に67本だったのが、昨年は98本になっている。しかし興業収益についてはここ1、2年は明らかに低下しているのが実情である。
去年の興業収入ランキングナンバーワンは、「猟犬」であった。

儲けを狙った商業映画がたくさんつくられているということなのではないだろうか。

未開は文明より勝る?

ビタリー・スンダコフは「冒険者」(PUTESHESTVENNIK)という手記を出した。スンダコフのインタビュー。「冒険家」とはどんなことをする人間なのかということからはじまり、特に彼が惹かれている未開への冒険について語る。

 

2008年1月4号

そしてビジネスマンもアリーナに進出する

13年前はモスクワをBMWでぶっとばしていたバリバリの銀行家アンドレイ・シロフスキイは、アルバート街で小さな虎を買ったことから、彼の人生は大きく変わる。虎のジェニーと一緒にロシア国内をまわり、いつもそばに置いておいたアンドレイに対して妻は、「私をとるの、ジェニーをとるの」と迫る。ジェニーをとる。友人が開業した新しい銀行の副頭取となるも、この友人が死に、銀行は倒産。無職になる。ジェニーと一緒に大道芸をする。餌を確保するためにサーカスに就職することに。

面白い人がいるもんである。サーカスにはいろんな人がいるが、こうしたビジネスからの転身組というのは珍しいのではないだろうか。

人を寄せつけない高み

1月25日はビソツキイの70回目の誕生日である。28年前に亡くなってから、28年間も我々はビソツキイなしで生きている。だが、何百冊にものぼる彼の歌集は出版されつづけ、記念碑が建てられ、学問研究の対象にもなり、ドイツでは8巻の全集も出ている。彼はいまだに私たちのなかで生き続けているのだ。

ビソツキイは永遠なのである。


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