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【短期連載】フール祭の人々

 10月8日からシアターΧで開催される『第二回東京国際フール祭』に出演する予定の10組のパフォーマーについて、時にはインタビューなどもまじえながら、クマなりに紹介していきます。

フール祭の詳しい情報はACCのホームページで!
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第1回 山本光洋 (10月9日午後7時半公演)

 「第二回東京国際フール祭」の日本人のトップバッターとして出演するのが、山本光洋。知る人ぞ知るマイムの達人である。彼ともずいぶん長い付き合いになった。そもそも最初に光洋のことを知ったのは、今回のフール祭のオムニバスBにも出演するCHiCAの紹介だった。一度見て下さいという案内をCHiCAからもらい、気になっていまはなき渋谷のジャンジャンで初めて、光洋のマイムライブを見た。マイムというジャンルを越えるような、シャープな切り口のライブを見て、「へぇー日本にもこんなことをしているパフォーマーがいたのだ」とうれしくなった。
 その前だったのかあとなのか定かではないのだが、光洋から私宛てに手紙が届いた。ACCの呼んできたクラウンは全て見ており、テーストが合うのではないかと思い、案内をだしましたというような内容だったと思う。
 それから年に一回のジャンジャンの公演は、楽しみで、東京にいるかぎり見るようにしていた。そんなこともをあり、ACC主催のクラウンの公演に来たときに挨拶をかわすようになり、いつか一緒に酒でも飲みましょうということになったのだと思う。
 光洋はあまり酒が強くない。最初に飲んだときビールだけでなく、朝鮮人参酒に手を出し、無理やり飲ましたら、次の日たいへんだったとこぼされてしまった。
 こんな感じで付き合いがはじまり、ACCの仕事もなんどかしてもらうようになったし、仕事以外でも酒を飲み交わすようになった。
 光洋と酒を飲むのはいつも刺激があって、楽しい。芸のことを話はじめるととまらなくなる。とにかく芸に関しては、とことん妥協を許さない、一本気なパフォーマーである。あの細い身体で、つきつめていくものだから、ストイックな求道者のような感じさえ漂ってくる。
 私と言えば、よく考えもせずその場の勢いで喋る癖がいまでも抜けきれず、光洋にもこの調子で付き合っていたので、酒を飲んだ時なんかは、だいぶ迷惑もかけたのではないかと思う。
 ジャンジャン閉鎖のあとソロライブをどうするのかいろいろ迷っていた時もあったようだが、昨年二回にわたって、新宿のブラッツという小さな劇場で、ソロライブを再開した。この時は、モノを使うことをテーマにした「モノプレイ」を演じた。いままで身体の動きだけで表現していたものを、モノをそこに介在させるとどうなるかという実験的な意味合いがあったようだ。妥協を許さない頑固なパフォーマー光洋は、単にモノと遊ぶだけでは満足しなかった。モノにもこだわり続けた。オタマジャクシのような目のような球体とか、新聞紙でつくった奇妙な生き物のようなもの、へんなモノが次から次へと生れてきた。モノと遊ぶというところから、また光洋の表現が広がったと思う。
 先日一緒に飲んだばかりなのだが、今度のフール祭でもこの「モノプレイ」の延長で作品をつくるつもりだと言っていた。どんな風にまた表現が広がっていくかとても楽しみだ。
 いい加減でずぼらな私とストイックで求道者のような光洋には、あまり共通項はないのだが、ひとつだけ共通していることがある。作家の吉村昭ファンということである。この話が出たとき、お互いにヘェーっていうような感じだった。
 このことで盛りあがった時、面白い話が出てきた。吉村昭の小説は、歴史ノンフィクションとでもいっていいと思うのだが、光洋は、自分のマイムと比較して、こんなことを言っていた。
 「マイムってどうしても説明的になるじゃないですか。そうじゃないんだよ、という思いがいつもあるんですよ、自分には。吉村昭の小説って、こう説明がなくて、ずばずばと事実をもってきて、読ませるじゃないですか。あれなんですよね。好きなのは。」
 吉村昭の小説と、自分のマイムを重ね合わせるところは、光洋らしい。

 フール祭まではきっと、光洋にとって七転八倒、苦しみの日々が続くのではないだろうか。終わったあとのビールを一緒に付き合うことが楽しみだなんて言ったら、きっと怒るだろうなあ・・・・


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