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【短期連載】フール祭の人々

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第2回 神山一朗 (10月10日午後7時半公演)

 神山の今回のフール祭に賭ける意気込みは、半端ではない。パントマンガの活動以外にも、インチキマジシャンをスピィーディーに演じるセンチュリー神山や、Kajaやこうじと組んでのメンテナンスもの、さらには昨年の静岡の大道芸やキャナルシティーで演じたクローンなど、このところ神山の活動は多彩をきわめている。しかしひとりでステージで演じるソロライブには初チャレンジとなる。これが神山の闘志に火をつけているのだと思う。どんなステージになるのか、とても楽しみだ。
 神山と最初に会ったのは、三年か四年まえの野毛大道芸の打ち上げの二次会だった。いま思い出すと、互いにとってあまりいい出会いではなかったと思う。初対面なのにもかかわらず、互いに十分に出来上がっており、ヘベレケの状態で、からみあったような気がする。そのあと何度かplanBで会ったりして飲んでも、それがひきずって、なかなか打ち解けて話しができなかった。それが少しずつかわるようになったのは、やはりplanBで飲んでいたときに、フィリップ・ジャンティーの話しをしはじめてからではなかったと思う。私も彼もフィリップ・ジャンティーが大好きで、日本での公演はほとんど見ていた。ここで大いに話しが盛りあがった。考えてみると確かにフリップ・ジャンティーの世界は、神山がつくりだそうしている世界に近いものがあるかもしれない。もちろんマイムをベースにはしているのだが、それを仕掛けというか演出でふくらませていく、そういうものをつくりたいのではないかと思う。
 センチュリー神山のヘボマジシャンは、とても好きなネタのひとつだ。最初に見たのは、小出、手塚、Kajaと四人で作品をつくった時だったと思う。いきなりピンスポからはみ出して登場することから始まり、次々にマジックを巧みに失敗する、あのあざとさが見事だった。とても気に入ったネタだったので、6月のカバレット・チッタでも演じてもらったのだが、本人からすれば出演者のトップバッターで、しかもいつもつかっている音楽を梅津さんたちが生で演奏するということもあり、かなりやりずらかったのではないかと思う。ただ少しびっくりしたのは、前日のバンドさんとの初めての合わせ、当日の通し、そして本番とそのたびに神山は、ネタを少しずつ変えていたことだ。舞台が大きいから、これじゃ目立たないと思って、ちがう道具を使ったり、オチを変えたりと、彼はとことこんまでどうしたらいいかを考えていた。これでいいやあではなく、自分が納得するまで、突き詰めるタイプのパフォーマーなのだろう。
 センチューリー神山は、神山が大好きなマジックをネタにしている。彼は心の底からマジックを愛している。去年私は、仕事で『マスクマジャン』の手伝いをしていたのだが、この掟破りのネタバラシ・マジシャンに対して、神山は憎悪に近い感情を抱いていた。そして私がこの仕事を手伝っていることを知って、彼はその怒りをぶちまけてきた。もちろん仕事ということはわかってくれていたのだが、それでもなお、こんなマジシャンの片棒を担いでいるのが、彼には許せなかったのだ。マジックを愛するからこそ、その大事にしているもの、夢を壊されたことへの憤りだったのだと思う。正直言って、ストレートにこれだけ立ち向かってこられて、返す言葉がなかったし、かなりへこんでしまった。

 おそらく神山の中には、いろいろなアイディアがつまっているはずだ。それをかたちにするためにいろいろな仕掛けを考えていくことが、彼の創作エネルギーの源になっているのだと思う。そんな機会がどんどん生れることで、神山の芸も広がっていくはずだ。その意味でフール祭での初めてのソロライブへの挑戦は、大きな大きな意義を持っている。どんな仕掛けがとびだすのか、楽しみだ。公演本番までぎりぎり、悩み、苦しみ、あえぐのだろうが、きっと度肝を抜くようなステージを見せてくれるのではないかと思っている。
 これはどうでもいいことなのだが、私と神山は宮城県石巻生まれ、同郷の士でもある。東京に出てきて30年近くになるが、石巻生まれの人と会ったのは、実は初めての体験であった。


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