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【連載】クラウン断章

最終回 パルーニンは語る その3

 パルーニンのインタビュー記事の最終回です。ここでパルーニンは、いま彼がつくろうとしている新たな創造的場である『愚者の船』と野外劇の可能性について語っています。クラウン−パルーニンは、さらに道化に大きな可能性を求めているように思えます。

パルーニンについては【連載】Back to the USSR第3回もご覧下さい

『愚者の船』と野外パフォーマンス
新たな民衆演劇を求めて


『愚者の船』と野外パフォーマンス

『愚者の船』は、演劇狂人たちの集う場なのである。
−−−パルーニン国際演劇文化センターはできるのですか?

「・・・国というものが複雑な機械が何層にもなって組み立てられているものだということはわかります。センターをつくるという最終地点にたどりつくまではまだまだ時間がかかるでしょう。ただ私は自分のやりたいこと、やろうとしている事業のために長い年月待つということはできません。いまは奇跡へののぞみをもって生きているといっていいかもしれません。例えば私のことが好きな人がいて、なにか思いもかけない決定が下されるとかね。こんな方法でしかセンターは出来ないと思います」

−−−センターはやはり『愚者の船』と呼ばれるのですか?

「『愚者の船』というのは、コンセプトの内面を反映した名称だと言っていいかもしれません。もしかしたら名称は変わるかもしれません。これはなにかファンタスティックな場所であり、ひとりひとりが自分がもっている狂気に応じて生きる可能性をつくる集まりでもあります。私はスラーバ・パルーニンが自分自身を実現できるような場所をつくりたいとは思っているわけではありません。私は他の人たちを押し上げたいのです、彼らが私であり、私たちの世界になるのです。同じような道を歩いていけるような人たちをただ集めたいのです。互いに刺激しあいながら、思いもかけないようなものをつくりあげるのです。これは、多くの人たちが自分のアイディアを発展させ、そうした人々が必要であると感じれるような、クラブなのです。
 『愚者の船』は、演劇を愛する狂人たちの「著作集」なのです。演劇というのは、テレビや家を売ったりすることに比べたら、儲かることではありません。家を売ろうとしているような人たちは、同じようなビジネスで成功するかもしれませんし、大きなお金を得ることができるかもしれません。でも演劇好きの狂人たちは、演劇を愛し、それで他の人たちを燃えさせ、彼らを生活のなかで支えていこうとするのです。
 センターの目的は、いま私が呼んでいる実験的劇場のための仲間をつくることなのです。こうした実験的劇場の中で、生活と演劇の間の思いもよらなかったような相互関係が生み出されるのです。これが私が、いま仮に『愚者の船』と呼んでいる場なのです。公式的な看板がどうなるかは重要なことではないのです。パルーニンセンターでも、狂人クラブでもなんだっていいのです」

新たな民衆演劇を求めて

−−−あなたにとって、現代芸術の大きな動きとなっているのは何なのですか?

「なぜ私が野外劇をやろうとしているのか? 私のショーはもう野外ではやらないからです。私は演出家でもなければ、俳優でもありません。状況をつくり出す人間なのです。フェスティバルなのか、展覧会を開くことなのか、他のイベントかもしれませんが、なにか状況をつくろうとするのです。私は、生活の新たな状況をつくるために、人々を喚起するような状態をつくる糸口を探しているのです。この中で人々は、祝祭的な、予想もできないような、当たり前ではない、灰色でもないものに変わることができるのです。こうした先に未来の演劇があるのです。
 ・・・私は簡単に言うのなら、演劇はもっと民主的になるべきだと感じています。もっと多くの層に働きかけるよう志すべきです。熟慮し、練り上げられ、繊細な演技からなるインテリの演劇の中で、仲間うちだけが集まった人々は、演説を聞くだけではないですか、これは閉ざされたシステムの演劇です。大勢の人たちはこうした演劇を見ないでしょう。ここでは言葉も特殊なのもので、理解するのも難しいのです。だから観客の大部分はサーカスへ向かうのです。サーカスでは単純な力が、勇気が、技が、上回っているのです。子供もおばあちゃんも、市場から来た人にもみんな理解できるのです。
 市場の陽気な伝統は今日失われています。だからこそそれを野外劇やフェスティバルを通して復活させたいのです。将来演劇を全体的なものにする、私たちの生活を演劇化するという要求がさらに強まることになるでしょう」


 これは去年モスクワシアターオリンピックが開催される前におこなわれたインタビュー記事からの抜粋でした。今年パルーニンがどんな動きをするのか、とても注目されます。なにかわかりましたら、ここで随時紹介していきたいと思います。


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