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今週買った本・読んだ本 4月15日

堤秀世『チンパンジーにありがとう』
出版社 フレーベル館  定価 1400円+税  2003年刊

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 著者の堤さんは、伊豆シャボテン公園の園長ながら、ここの名物、チンパンジーショーにいまでも現役調教師として出演している。TBSの『動物奇想天外』などのテレビ番組にも数多く出演しているので、ひげの調教師のおじさんを見たことがある人も多いのではないだろうか。
 堤さんとはかれこれ20年近くの付き合いになるのではないだろうか。現サーカス村村長で、私が勤めている会社の社長西田敬一氏の紹介で初めて会ったのは、たしか「サーカス文化の会」の例会に初めて出席したときではないかと思う。堤さんが芦原英了賞を受賞したときには、司会をさせてもらったりした。とにかく最初から、この人はチンパンジーのことしか頭にないんだろうなあと思うくらい、とにかく生活のすべてを動物調教に賭けているそれを全身から漂わせている人だったという印象がある、それはきっといまでも同じだと思う。

 その堤さんの半生がこの本では語られている。内気だったファーブル好きの少年が、大学に入って馬と出会い、そこではじまる動物との付き合い、そして運命的ともいえる移動動物園の仕事を通しての調教との出会い、そして伊豆シャボテン公園で、チンパンジーの調教をはじめ、さまざまなチンパンジーとの付き合いから、現在にいたるまでが飾らない言葉で、淡々と語られている。これはこども向けに書かれたものなのだが、決してこどもに媚びて書かれてものではない。わかりやすくは書いてあるものの、真摯に自分とチンパンジーとの触れ合いを書いている。いかにも堤さんらしい本だと思う。
 だいたいこのタイトルからして、堤さんらしいではないか。堤さんのこの本を読めばわかるように、堤さんの調教スタイルは一貫している、動物との信頼関係をどう築くかということである。動物に芸を仕込むことで、動物にも観客にも楽しんでもらいたい、それが調教師の自分の生きかたなのだという姿勢はずっと変わらない。自分もサーカスと仕事をするなか、いろんな調教師と会ってきた。なかにはひどい暴力で、仕込む調教師もいた。動物を馴らすためには、動物を征服しなくてはならない、それを怠れば自分が死に追い込まれることもあるわけである。それゆえ死といつも立ち向かっているのが、調教師ともいえる。堤さんもチンパンジーにいつもどこかでこわがりながら接していることもこの本では素直に語られている。それでも信頼関係を築くこと、それを原点に、調教を続ける堤さんの姿が、この本では浮かび上がってくる。
 こんなことを言っては失礼かもしれないが、堤さんはどんどんチンパンジーに似てきているような気がする。それはほんとうにチンパンジーと真っ正面に付き合っていることのひとつの証なのかもしれない。
 いま動物調教は動物愛護の問題など難しい局面に立たされているところもある。それでも堤さんは、チンパンジーを調教することの喜びを、チンパンジーとともにしたい、その気持ちをずっと大事にしているのだと思う。それがひしひしと感じられる本である。

 シャボテン公園に二度娘たちと一緒に行ったことがある。あの時娘たちがこわごわ抱かせてもらったジェニーはいまどうしているのだろう、ビリーは・・・・。なんて思っているうちにシャボテン公園に行きたくなってしまった。
 堤さんから寄贈していただいたこの本の最後の頁には、現在の堤さんのパートナー、ダイゴちゃんの手形が捺されてあった。こんな心遣いも堤さんらしい。
 真底触れ合いということの大事さを教えてもらったような気がする。


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