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今週買った本・読んだ本 8月1日

別冊東北学7号
発行 東北芸術工科大学 / 発売 作品社 / 責任編集 赤坂憲雄 森繁哉
定価 2000円 / 2004年1月発行

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 ずいぶん前にいただいていたのだが、それこそずっと積んでおいたままになっていた。
 独特の視点から編集されたこの雑誌も、このあとに発行される8号をもって、活動を終えることになるらしい。実はこの雑誌に若宮丸のことを寄稿したことがあり、それからずっと寄贈してもらっていた。先頃直木賞を受賞した仙台在住の熊谷達也氏も、この雑誌で連載小説を掲載している。

 この前の号で、女相撲のルポが発表され、今どきこんなことに関心をもつ人がいるのかとびっくりしたのだが、この号でその続編が掲載されている。女相撲が生まれた山形で、興行に携わっていた石山興行の人間を取材した、非常に中味の濃いルポになっている。
 旅する芸人たちと題された小特集で、前回の続編となる千葉由香の「やまがた女相撲異聞」、そしてこの興行をしていた石山興行の関係者である、石山國彦の手記「石山女相撲の戦後」、そして民俗学の亀山好恵の「女相撲への憧憬」という3つの論考・ルポが掲載されている。前回の論考を含め、これらの記事により、ほぼ忘れ去れていた大衆芸能としての女相撲のありかたが後世へしっかりと伝えられることになった。そのことの意義は大きいと思う。
 前回に引き継いで書かれた千葉の論考は、なぜこの女相撲という興行が、80年にわたり人気をもち得たのかを、この興行を支えた石山一家の姿を徹底的に追いかけることで、実証している。闇の部分をはらむ、興行の世界に、入り込んだこと、それはこうした芸能ルポのなかでもきわめて珍しいのではないかと思う。おそらく、ここで手記を書いている石山家の人々との間にかなりの信頼関係を築き上げたこと、それがこのルポの成功につながっていると思う。
 またきわものと見られがちな女相撲のなかに、健康なエロチズムとでもいうような、一時の女子プロレスの人気ともつながるもの、それを見つけ出しているのも、面白かった。これについては、亀山が、女相撲を実際に見た人たちに取材した記事が、フォローしている。

 いまはあとかたもなくなってしまったこうした見世物を、これだけきちんとしたかたちでまとめたということは、関係者が少なくなっていくなか、とても貴重なことだと思う。
 単なる物珍しさだけでなく、調査・取材していくなかで、女相撲への憧憬が生まれていく、そんなプロセスにも共感を抱けた。
 千葉さんが、これからどんな分野でこうしたフィールドワークをしていくのか、それもまた楽しみである。
 サーカスや見世物の歴史に関心のある人は、ぜひ読んでもらいたいルポである。


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