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クマの読書乱読 2002年3月

『運命の双子』
著者 ダリン・ストラウス
訳  布施由紀子
角川書店、2001年11月刊行、1600円(本体)
購入したきっかけ  書店で見て

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 シャム双生児ということばのもとになった、タイ生まれの二重体児のチャンとエンの数奇な生涯を追ったノンフィクションノベル。
 この双生児が、19世紀後半アメリカ最大の興行師バーナムのところで働いたことを知っていたので、つい買ってしまった。
 事実に則っている部分もあるのだろうが、所詮は読者の興味をかきたてるようにつくられたフィクションだった。ちゃんとあとがきを読んでから買うべきだったかもしれない。ノンフィクションとあったのが、買う一番の動機になったのだから。
 チャンが死に、まもなく自分も死ぬことを悟ったエンの回顧形式で語られる。ノースカロライナで、ホテルを営む家の姉妹と出会うところから回想は始まり、ふたつの時間軸が交錯するかたちで、運命の双子の生きたさまが語られる。この二組がたどる愛憎の歴史と、ふたりの兄弟が生まれてから姉妹に出会うまでが、達者な叙述で語られるわけだ。
 何故結婚することになったのか、性生活はどうししていたのか、そしてエンがチャンの妻に次第に惹かれていくとか、読者が興味もちそうなことに的を絞り、実にうまく書いている。ディズニーが映画化の権利を買ったということだが、この兄弟と姉妹の愛憎を作者がうまくひきだしたからだろうか。
 最近見たロシア映画『フリークスも人間も』でもシャム双生児が出てくるが、これも時代はずらしているが、チャンとエンをモデルにしている。この映画は面白かった。シャープな映像で、世紀末のペテルブルグを舞台に、人間の裏面を鋭く切り取ってみせてくれた。
 この『運命の双子』は、読み物としては面白かったが、ふたりの実人生がどんなものだったのか知りたいという意味では、最初にも書いたようにかなりもの足りなかった。ノンフィクションノベルというのは、実に都合のいい言葉である。題材だけを実人物からかりて、自分の都合のいいように書けばいいのだから。
 ノンフィクションを書く時、自分の視点で書くわけだから、あるところで自分の考えなども入れていくことになる。ただそれをまったくフィクション化するのは、どんなもんだろう。手法としてはあってもいいが、それはノンフィクションではなく、小説と名づけた方がいいのではないだろうか。


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