月刊デラシネ通信 > その他の記事 > クマの観覧雑記帳

クマの観覧雑記帳

『ナポレオンズ・立川談志 イリュージョン対決』

出演者 ナポレオンズ・柳貴家小雪・フェルストン・ジョーンズ・立川談志
会場  横浜にぎわい座
観覧日 2003年3月6日(木) 午後6:30〜


2003年3月6日 木曜日 10:33p.m.

 3月6日横浜にぎわい座にて、「イリュージョン対決」を見る。プロデュースをしている沢田隆治氏と電話で話していたら、ラスベガスのフェルストン・ジョーンズというマジシャンがいま来ているから、見たらと誘われ、見に行った。ジョーンズは、4日の公演にもでていたのだが、沢田さんいわく、6日の方が絶対にいいと言われたのだが、その意味がよくわかった。

 公演の内容は、いつものようにナポレンオンズが進行役をつとめ、マジックのネタを見せながら、間にゆみ(女性マジシャン−清楚な感じがすくなかなかの美人で、芸風もルックスにあった美しさをひきたてたもの、リスボンのフィズムで銀賞をとったという)、柳貴家小雪の大神楽曲芸(芸はそこそこだが、もう少ししゃべりを上手した方がいいだろうなあ)、そしてフェルストン・ジョーンズのマジック(炎のイリュージョンということで、火を次々に取り出したり、爆竹をつかったり、テンポがあって、こけおどしも実にさまになっている、華やかなマジックだった)の芸があって、そのあと今日の目玉ともいうべき、立川談志とナポレオンズのトークショーという内容。
 とにかく自分はまったく期待していなかったのだが、このトークショーが抜群に面白かった。
 談志は登場してすぐに、いま演技を終えたばかりのフェルストンがやった客をつかってのマジックをいきなりけなし、さらにはゆみのマジックもあれはたいたことないねといなす。いきなり出演者の悪口から入り、しょっぱなから、なんとなく危ない雰囲気が漂ってくる。「落語はイリュージョン」と談志はかねがね言っているらしく、ナポレオンズと一度マジックの話をしたいと言っていたことから実現した企画とのことだが、談志は実によくマジックのショーを見ている。ナポレンオンズと、さまざまなマジシャンを肴に話すことで、彼の芸論を聞けたのが面白かった。

 途中からビデオで、古今東西のマジシャンのビデオを見ながら、その品評をしながらトークは進んでいく。このビデオというのが、マジックのコレクター沢田隆治氏ならではの逸品揃い。談志は何度か舞台にすわりこみ、見惚れていた。どうも彼が一番好きなマジシャンは、アダチ竜光らしい。独特のとぼけた味わいの話ぶりのなかに、談志は芸の本質を見ているようだった。ショパン猪狩のもおおはしゃぎで見ていた。それとおかしかったのは布目貫一という浪曲手品のビデオが流れたときに、大体浪曲と手品と一緒にするところで、ダメだよねと言ったのだが、見ているうちにこりゃ面白い、これだけ馬鹿馬鹿しいといいね、さっきはあんなことを言って失礼と言ったこと。やはりこの人は、芸ということにこだわりながら見ているし、彼なりの芸論というか、本質がきっちりできているということなのだろう。
 ステージでしょぼいインチキマジックのようなものを見せているナポレンオンズを、談志は買っているのである。トークの締めで、談志が、ナポレンオンズの芸に対して、「首がぐるぐるまわるやつでさ、実際に首がほんとうにまわったらいいよな、それをやっている自分もわかんなくて、さりげなくやってしまうってなことができたら、いいだろうねえ。」と言っていたのが、印象に残った。それに対してナポレオンズのふたりは、ちょっと答えに困っていたが、談志はそれでも、「いやあんたたちはそれがきっとできるよ」と言っていた。
 すごいことをやっているのだけど、やっている本人たちがそれに気づかないように、さりげなく演じる、それがほんとうの芸じゃないのという芸論、とてもインパクトがあった。
 見ていて、とてもとくした公演だった。久しぶりにいいものを見たというか、聞いた、そんな会だった。
 こういうことがプロデュースできるのは、やはり沢田隆治だと思う。
 この3月で沢田さんはにぎわい座のプロデュースをおりるそうだが、もったいないことだと思う。


目次へ デラシネ通信 Top 前へ | 次へ