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『虚業成れり−「呼び屋」神彰の生涯』刊行裏話

第7回 イブモンタン幻のプログラム

 AFAの元社員の人たちに取材する時、公演プログラムのいくつか見れるかと思っていたのだが、ほとんどの方が持っていなかったのに最初は驚いたものだ。ただ私自身も自分が関わった仕事のプログラムで手元にあるものはわずか、みなさんが持っていないというのも無理もないと半ば諦め、上野にある音楽資料館などをこまめに探すしかないかと思っていた時、芦沢丸枝さんから、どてかいダンボールが宅急便で送られてきた。このなかにぎっしりとアートフレンド時代のプログラムやチラシ、写真などが詰め込まれていたのを見て、思わず歓声をあげてしまった。AFAで丸枝さんと一緒に働いていた姉の長さんがもっていたものを送ってくれたのだ。これはありがたかった。本書のなかでもこのなかから図版として何点かつかわしてもらうことになった。
 こうしたプログラムを手にとってみると、ユニークなものが多く、AFAの公演に賭ける熱意がビシビシとつたわって来た。ユニークな点は、まず判型の大きいものが多いこと。いまでは珍しくないかもしれないが、当時こんな大きなプログラムはかなり斬新だったろう。アートブレイキー、クリス・コナー、ソニーロリンズなどのジャズものは、みな大判で、表紙のデザインもかっこういい。もうひとつはボリショイ・バレエやレニングラードバレエなどは大判ではないのだが、表紙が分厚いもので豪華さをおもいきり出していることだ。そうかと思えばボリショイサーカスなどは、子供たちが楽しめるようにマンガがついていたりしている、しかも子供だましのマンガではなく、横山隆一など一流の漫画家たちがが描いているというところに、神たちの美学を見ることができる。
 こうしたプログラムを手にとって見ながら、AFAという集団のユニークさ、心意気をあらためて感じる。
 私が前に勤めていた会社中央放送エージェンシーの大川も、AFAのを範にしながら、プログラムつくっていたと思う。オブラスツォフのモスクワ中央人形劇場やレニングラードボリショイドラマ劇場のプログラムの表紙はえらい豪華なものだったし、DDR動物大サーカスの時は、ボリショイサーカスのプログラムのように、豪華な執筆陣が並んだ。自分の呼んだものに対するひとつの誇りの表現が、こうした豪華なプログラムになったのだと思う。
 横岩長さんが保管していたプログラムのなかで、最高の逸品は、日本で公演できなかった幻の「世界の恋人」イブ・モンタンのゲラの公演プログラムであろう。公演直前の中止ということが、リアルにわかるものでもあった。お宝鑑定団に出したら、いくらぐらいの値段がつくだろう。ここには神自身のエッセイもあった。
 こうした立派なプログラムをつくるためには、それなりに労力がかかっているはずあり、もちろん売れればそのまま収入になることで、金儲けの手段であったことはわかるのだが、それ以上に神彰にとって興行が、ひとつの美学の発露でもあったことをしめしているように思える。
 どこかで「神彰展」ができないかとふと思ったのは、こうしたプログラムを手にしてからであった。
 長さんとはお会いできなかったが、彼女はこうしたプログラムをどうしていまのいままで保管していたのであろう。大事な青春時代の思い出をどうしても捨てられなかったのではないだろうか。


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