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『虚業成れり−「呼び屋」神彰の生涯』刊行裏話

第8回 3ヶ月が経って

 本がでたのは、1月末、はや3ヶ月が経とうとしている。新聞、雑誌の書評にずいぶんとりあげてもらった。正直これだけ反響があるとは思わなかった。紹介された書評についてはネットで見れないものも含めて、まとめて掲載するつもりであるが、並べてみるとなかなか壮観である。私にとって二冊目の本『海を渡ったサーカス芸人』もずいぶん書評で取り上げてもらったが、それ以上の反響である。やはり神彰という人の魅力が大きいのだと思う。こうした書評のおかげもあって、大きな書店で平積みにして置いてもらうことができた。八重洲ブックセンターでは入ってすぐのところに、わざわざ書店が作成したポップ入りで平積みされていた。これを最初にみたときはびっくりしたし、また感動もした。アマゾンでは一時売上で1000番台になったこともあったし、ヤフーの本のネット販売の人物評伝部門の売上ランキングではいまだにベスト10に入っている。いろいろなネットで本を読んでいただいた人たちの感想が紹介されている。順調な滑り出しだといえる。
 せっかく書いた本だから多くの人に読んでもらいたいし、また個人的には一度も重版された経験がないので、一冊ぐらい重版にしたいという夢もある。

 3ヶ月が経ち、そろそろ平積みから外されて、本棚に一冊だけひっそりと置かれているところも多くなったし、アマゾンではすでに売上ランキングの1万台にまで落ちている。新刊優先という本の流通システムを考えると、新刊の渦のなかで押し出されていくのは、当然の流れでもある。
 ただ自分では、これからが勝負だと思っている。出版社の営業努力、書評の効果で勢いよくスタートダッシュできたわけだが、これからがこの本のもっているエネルギーの真価が問われるところである。ほんとうにこの本に力があれば、たとえ売上が落ちるにせよ、少しずつでも売れ続けていくはずだと思う。宣伝や露出だけではなく、あとは中味で評価されていくはずである。自分でいうのも何だが、その力はあると思っている。
 それだけ神彰という人の魅力は、はかりしれないものがあると信じている。
 3ヶ月が経ち、一息ついたところで、少しでも多くの人に読んでもらいたいという作者である私の、ほんとうの営業活動がはじまると思っている。本が刊行されてから、本業が多忙をきわめ、なかなかこうした活動に本腰が入れられなかったのだが、少し落ち着き始めたので、いろいろ仕掛けていきたいと思っている。

 先日『虚業成れり』を読んでくれた若い編集者から、今度だす音楽関係の本に執筆して欲しいと依頼された。テーマは「音楽を呼ぶ」ということなのだが、いまの若い人たちがやっているクラブを中心としたイベントが、スポンサードする会社を追いかけることが目的になってしまい、本来やりたいものをやるという目的が希薄になっている、そうしたなかで神さんの呼び屋魂のようなものを紹介することに意義があるのではということだった。なるほどと思った。神さんのことをまったく知らないイベントに携わる人たちに、神さんのやってきたことを知ってもらうこと、これはこの本を出すときに視野に入っていなかった。神彰のことを知っている50歳以上の人が、コア層だと勝手に思っていたのだが、こういう若い層に向けて、なにか発信できないかと考えている。
 仕事で付き合っている、義理でこの本を買ってくれた若いパフォーマーたちも、読んで面白かったと言ってくれている。これをひとつのヒントにして、なにかイベントをできないだろうかと、いま秘策を練っている。これも呼び屋として興行の世界に身を置く自分の真価をためす機会なのかもしれない。
 0からの出発というのは、この本の大きなテーマのひとつになっているわけだが、この本を書くことで呼び屋として、もう一度「幻」を追いかけようと決意した自分にとって、まったく未知のものを世に知らしめるという課題は、ある意味でふさわしいものかもしれない。

 もうひとつこれは本を売るためということではなく、イベントとしてやりたいのは、かつてのAFAの人たちに集まってもらい、神さんの思い出、そしてAFAの思い出、自分の思い出を語れるような場がつくれないかということだ。今年は神さんの七回忌、5月28日の神さんの命日あたりにそんな場をつくりたいと思っている。
 過去と未来とが交錯する場に神彰という人は、いまだに存在感をもって立ち現れるということなのかもしれない。
 したがってこの刊行裏話の連載も、そんなイベントの進展も含めて、まだまだしぶとく続けていくことになる。


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