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神彰伝取材ノート

第3回 レニングラードフィルのチケット

2003年1月7日 記

 正月思いがけないお年玉をいただいた。デラシネの読者で早稲田の学生千葉さんから、神彰が、アートフレンド時代に呼んだレニングラードフィルハーモニーオーケストラの入場券が古本屋で売っていたのを見て、それを購入したので、もしも必要であれば譲ってくれるというのだ。
 千葉さんには一度会ったことがある。アートフレンドの幹部社員のひとり富原孝の行方を知っているというので、それについていろいろ話を聞かせてもらった。残念ながら富原氏は、病気のためとても取材には応じられないということで、お会いすることはできなかったのだが、電話でお話を少しだけでも聞かせてもらったのは、私にとっては大きな意味をもつことになった。
 そして今度はわざわざ古本で見つけた入場券を購入して、譲っていただけるという申し出である。ありがたいことである。

 今日(1月6日)会社宛てに、この入場券が届いていた。レニングラードフィル公演のなかで、大衆公演と呼ばれた東京体育館で開催されたときの入場券だった。ロシア語で大きくタイトルが書かれてあるいま見ても斬新なデザインで、しかもこの小さな入場券の裏には、当日の演奏プログラムも記載されているのにはちょっと驚いた。いまから40年以上前のチケットなのだが、きれいなまま保存されている。これを買った人は、この日の公演の思い出をずっと大事にしていたのだろう。

入場券 表入場券 裏

 呼び屋という生業は、虚業とも呼ばれ、文化を謳いながら、文化を食いものにしているように見られている節がある。でもこうしたチケットを手にしてみると、この一夜かぎりの公演を見たことを、大事にしている人がいたのであり、それは呼び屋という商売をしているものにとっては勲章ともいえるのではないかという気がしてきた。
 デラシネ通信というネット上で、神彰伝を公開したことで、読者の人たちから温もりをもったこうした情報が得られたことは、当初予想もしなかったことだ。クラッシック関係のHPを主宰している大谷さんからは、この連載のことをあちこちのクラッシック関係のHPの掲示板に書き込みをしていただいたのだが、最近はロストロポービッチの公演データをおくっていただいた。ありがたいことである。
 どこかで見知らぬ人たちが、もしかしたら神彰伝の完成を待っているかもしれない、そんな勝手な錯覚を抱きながら、これを大きな励みにしている。いい本にしたいなあという思いがフツフツと湧いてくる。


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