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【連載】クラウン断章

第9回 パルーニンは語る その2

リツェジェイという伝説的なクラウングループを生み出したパルーニンは、コーディネイターと同時にクラウンとして演じ続けている。彼が語る外国での生活、そしてクラウンについて。

パルーニンについては【連載】Back to the USSR第3回もご覧下さい

ロシアとフランス、イギリス
言葉と身体について
『結婚式』プロジェクト


 今回と次回と2回にわたって、ロシアの新聞『独立新聞』(2001年3月21日付)に掲載されたパルーニンのインタビュー記事を抜粋で紹介します。
 小見出しは私がつけたものです。


ロシアとフランス、イギリス

−−−あなたは『トリウムフ賞(ロシア演劇の賞のひとつ)を取るまで、ロシアで11年間公演していないのではないですか?

「そうかもしれません。最後に公演したのは、野外演劇フェスティバル「世界キャラバン」をしたときです。そのあと1992年にロラン・ブィコフのところで、フール・アカデミーを企画した時に来たことはあります。二回『チュルダーキ』を小ホールで公演しましたが、その時は宣伝なんか一切してもらいませんでした。」

−−−あなたはどうしてフランスで公演したいと思ったのですか?

「ただパリが好きなだけです。でも例えば君もパリへ行けば、どこへでも行けるというような誤解があります。ほかの国のプロデューサーたちは、君がパリへ行ったことなんて、ぜんぜん関心をもたないはずです。誰もパリが不可知の町であることに、関心は持っていません。でもここでは逆のことがおこりえるところなのです。例えばカナダの「シルク・ドゥ・ソレイユ」。このサーカスが、大衆文化の世界で、ここ10年の中で最も大きな事件であると言っても過言でないでしょう。至るところで成功を収めている強力なシステムを持っているこのサーカス団が、フランスでは失敗しているのです。損をプラスにするだけのお金をもっているこのサーカスも、ここでは二度と公演しないと思っています。
 私は、フランスに行く時は、成功の確率が20から30パーセントぐらいのつもりでいるのです」

−−−あなたは今は、イギリスで暮らしてますよね、イギリスの観客はいかがですか?パリが好きなのに、どうしてパリに住まないのですか?

「ここが単純に見込みがたつからかな。「不思議の国のアリス」が好きだし、「モンティーパイソンサーカス」も好きだし、ナンセンスのユーモアも好きです。いい俳優や芝居も見れます。ただ気分的には私は、フランス人的かもしれない。私にはアグレシブな活気ある環境が必要なのです。イギリスの環境は、まったく違います。仕事の上で理想的なのはイギリスで、生活のためにはフランスですね」

言葉と身体について

−−−イギリスではドラマ劇に出演しないかという話はないのですか?

「シェイクスピアだとリア王でしょうね。ただ私はテキストをつかうことができないのです。リャザーノフ(ロシアの有名な映画監督)のもとで映画を撮った時も、私は自由ではありませんでした。何故なら私の脳味噌は、私の中から飛び出さなくてはならない、おそろしいほどの量の言葉に占領されてしまったからです。」

−−−−舞台でしゃべるのは好きじゃない?

「何かを表現することはできますよ。しかしなにか違うものになってしまう。自分の考えのようにするのは私にはとても難しいことなのです。これはたぶん私のジプシー的気質に関係するのかもしれないね。自由をくれ! どんなテキストなの?とね。生活するうえでは、私はいつもジプシーだから、たぶん舞台でもジプシーなのかもしれない。こんなたくさんのセリフは自由を制限してしまうのです」

−−−−舞台俳優にとっては逆です。言葉を拒否されると、制限されたと思うはずです。

「これは面白いテーマです。一晩中誰ともしゃべらないということは、誰かにとっては苦痛かもしれない。でも私はどうしてそれが問題なのか、ちっとも理解できません」

−−−−しかしミハイル・チェーホフは、舞台俳優たちを、彼らが死んだ素材として言葉をつかっていると非難しているではないですか?

「メイエルホリドはこう書いてます。『70パーセントが動きで、30パーセントが言葉だ。そうすればすべてうまくいく』と。(彼はこの時メイエルホリドの『メイエルホリドの講義』という本を出しながら説明した)。舞台では行動する人間が、しゃべる人間に勝つのです」

『結婚式』プロジェクト

−−−サンクト・ペテルブルグ300年祭でなにかやる計画があるのですか?

「私のプロジェクト『結婚式』をやろうと思っています。もう市長とも話をしましたし、彼もこのアイディアにのってくれています。私はどうするか、プランを持っています。フランスのプロデューサーも加わることになっています。サンクト・ペテルブルグ誕生の日に結婚する若者たちを集め、船でツアーをするのです。フランスにも行きます。立ち寄った国々でいろんな風に祝ってもらうのです。フランスのカップルも加わることになるでしょう」


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