月刊デラシネ通信 > サーカス&パフォーマンス > サーカス サーカス漂流 > 第8回

【連載】サーカス漂流

第8回 『カバレットチッタの試み』

 9月13日川崎駅前のライブハウス「クラブチッタ」で、「カバレットチッタ」の公演が行われた。私にとって長年の夢である本格的なキャバレーをつくるための大きな一歩となる公演だった。
 ヨーロッパを旅するなかで、テントでのサーカス公演のほかに、食事をしたり、酒を飲 みながら、サーカスを中心としたショーが見れるキャバレーというショー形式があることを知った。キャバレーの魅力は、なによりもくつろいだ気分で、ゆっくりとショーが楽しめることにある。酒好きの私には、一杯やりながら一流のショーが見れるのもこたえられなかった。こんな場を日本にもつくろうという夢は、ここから生まれた。
 日本でキャバレーというと、ホステスさんがついて、おじさんたちが鼻の下を伸ばしながら一杯飲むところというイメージがついてまわるが、ヨーロッパのキャバレーは、サーカス、クラウン、マジック、漫才、歌やダンスと、極上のエンターテイメントをまとめて見せるところ、これを実現するためには、海外からパフォーマーを呼ぶことになり、ランニングコストからいっても、ビジネスとして成立させるのは容易でない。バブル全盛の頃には、キャバレーをつくろうという話もあったが、すぐにたち消えになってしまった。
 そんな時に、中野のplanBという小さなライブスペースで、定期的に芸能をテーマにした企画をプロデュースしないかという話が舞い込む。いまから5年前のことである。ここでキャバレーをつくるための布石として、毎月一回パフォーマーたちを集めてヴァラエティーショーをやることを提案した。こうして『プランBコメディーナイト(プラコメ)』 がスタートする。最初は5組のパフォーマーでスタートしたプラコメは、およそ3年間続 く。多い時には10数組のパフォーマーが出演、観客も増え続け、プラコメは定着してい った。この中で、私にとって大きな財産となったのは、真剣に芸つくりに取り組んでいる 若いパフォーマーたちと数多く出会えたことだ。彼らの多くは、大道芸やイベントで生計 を立てていたのだが、やはりステージで自分のやりたいことを表現したいという夢を抱い ていたのだ。
 キャバレー構想をさらに突き進めるために生まれたのが、「カバレットチッタ」だった。planBで、パフォーマーとミュージシャンのセッションの企画をしたことがあった のだが、この試みに参加したサックス奏者梅津和時さんとキャバレーの話になり、意気投 合、ぜひ一緒にキャバレーをしましょうということになった。たまたまクラブチッタ から企画の相談を受け、ここで本格的にミュージシャンとパフォーマーをドッキングさ せたキャバレー形式のショーをすることになった。スタンディングで千人収容できる日本 でも有数のライブハウスに、梅津さん率いるこまっちゃクレズマと巻上公一、プラコメに 出演していたパフォーマー、さらにはちんどん楽団、ダンサー、日本で活動している中国 雑技の芸人などを一同に集め、「カバレットチッタ」の一回目の公演が行われた。昨年7 月のことである。台風が関東を直撃し、電車が次々に止まるという最悪の条件のもとで開 催されたのだが、予想に反し当日客が押し寄せ、200人以上の客が集まる。クレズマ ー音楽に合わせてのジャグリングやマイム、最後はジャンピング綱渡りの妙技で幕を閉じ たこの公演に観客は熱狂してくれた。この観客の反応を見て、確かな手応えを感じた。
 クラブチッタも、この反応を見て、定期的に「カバレットチッタ」を開催することを約束してくれた。今年2月行われた第二回目には、モンゴルのクラウンやフィンランドのマジシャンのほか、落語家、キャバレーダンス、ロシア俗謡歌手が出演、最後には空中ブランコもやるという盛りだくさんの公演になった。ただあまりにも詰め込みすぎて、 4時間以上という長丁場の公演になり、最終電車に間に合わないと慌てて帰る人がたくさ ん出てきたのは、大きな反省材料となったのだが・・・
 3回目の公演でも、ベリーダンス、ちんどん楽団、BMXライダーとさまざまなジャンルの人たちに出演してももらった。ライブハウスというふだんは立ち見で観客が見ているホール自体を、キャバレー風にするため、客席に小さな舞台をつくったり、円形のテーブルを配置するといった工夫もした。「カバレットチッタ」を3回するなかで、次第に自分の中で、キャバレー像が具体的なものになってきた。9月公演には300人以上の客が詰めかけ、初めて採算がとれるようにもなった。日本に本格的なキャバレーをという夢は、「カレバットチッタ」の試みを通じて、さらに膨らんできた、そんな実感を持っている。
 ヨーロッパのキャバレーのように、サーカス芸を中心とした番組構成を組むのは、まだできないにせよ、いろんな芸をライブ音楽とのセッションで、ごった煮のような状態で見せるなか、お客さんたちにくつろいで楽しんでもらう、キャバレーがつくれるのではないだろうか。
 まだまだ試行錯誤が続くとは思うが、時間をかけて、本格的なキャバレーショーをつく りたいと思っている。 これは私にとって大事な夢なのだから。


連載目次へ デラシネ通信 Top 前へ | 次へ