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クマのコスモポリタン紀行

第8回 済州島紀行編 その3

サーカス場に賭ける夢

 社長さんの運転する車で、島内の南半分を案内してもらった。社長さんは明日から北京に行って、それからウランバートルへ行くという忙しい身なのに、ほんとうに申し訳ない。しかし案内するのでもこの社長さんは、実にエネルギッシュである。とにかく身が軽いというか、素早いというか、あとを付いていくのがたいへんだ。昼食をとりながら、建設中のサーカス場の話になる。私が、「サーカス場を閉鎖するという話はよく聞くけど、新しくサーカス場をつくるなんて世界的に見ても珍しい話ですね」と、切り出すと、結構真剣な顔つきになった。
建設中のサーカス場の前で、江口君と社長 「江口君と相談して、サーカス場をつくっています。問題は、どんなアーティストを自分たちが呼べるかということなのです。そこで日本からあなたが来るというので、お会いしたいと思ったのです。私はこの建設のために約10億円つぎ込みました。これができたら2年後には、サーカスフェスティバルを開きたいという夢を持っています。あなたに是非協力してもらいたいのです」
 もちろんこの申し出を拒否する理由はない、いまどきこんな夢を追いかける人が隣国にいるのだ。喜んで協力したい。
 そんな話を高麗人参酒を飲みながら話した。そして再びサーカス場の建設地へ向かった。
 ここでも社長さんは精力的に案内してくれる。足場が悪いところを飛ぶように歩いていく。ここが正面玄関、ここがステージ、天井だかは25メートル、空中ものはなんでもできます、と説明をうけていく。工事現場をみた限りでは、とても2000人入る劇場ができるとは思えないのだが、かなり傾斜のあるいわゆるサーカス場になるのかもしれない。隣には出演するアーティストのためのホテルも建設されることになっている。
 昨日から気になっていたのは、建設を急いでいるわりには、工事をする作業員がいないこと、聞いてみたら、コンクリの基礎工事が終わって、いまそれが固まるのを待っているところだという。
 しかし済州島に来て、今年の秋には完成するというサーカス場の建築現場を見ることになろうとは、夢にも思わなかった。これもひとつの啓示なのかもしれない。

馬に乗る

草原を疾走する(?)馬とクマ サーカス場を見学してから、グリーンリゾートに戻り、3回目のショーを見る。見終わって楽屋の方を覗いてみると、なにやら騒がしい。昨日酔っぱらって、今回済州島に来たのは、馬サーカスを見ると、もうひとつ馬に乗って走ることだと息巻いたのだが、それをいまからやろうという。一番おとなしい馬が自分のために用意された。ハドガーも乗る準備。
 江口君、そしてハドガー、自分の3人が、楽屋で馬に騎乗。子供と一緒に浅間牧場で馬に乗ったことはあるが、本格的な騎乗は初めて。まずお尻がごつごつして痛いのに驚き。手綱を引いてもらって、乗馬場へ向かう。だんだんパカパカやっているうちに気持ちよくなってくる。ハドガーは誰にも手綱を引いてもらえなくても、ひとりで乗っている。モンゴル人だから当たり前だよという。やはりそういうものなのだ。
 馬はだんだん高原の方へ向かう。少し走ろうということになったのだが、正直いって怖くなってきた。いつ振り落とされてもいいような感じだ。ただ昨日酔っぱらって、よせばいいのにただ馬に乗るだけではなく、走りたいとさんざんくどく言っていた。当然この言葉を真に受けているモンゴルのジギドたちは、走らせないといけないと思っている。そしていままで手綱を持っていた男が、いきなり馬の横腹をたたく、それと同時に馬は当然のように駆けだした。どんだけ焦ったことか、きっととても見られた格好ではなかったと思う。帽子は飛ばされるわ、身体が後ろ向きにそってしまうわ、まさに恐怖の数分間であった。いったい何メートル走ったのだろう。自分としては数百メートル走ったような気もしているのだが、わずか数十メートルだったかもしれない。止めなくてはいけないということで、さっきまで手綱をもっていたジギト君が、あわてて、走ってやってきて、手綱をとってまさに身を挺して、止めてくれた。こっちからすればまさに九死に一生を得るといった感じだった。
 ぜったいに振り落とされると思った。
 馬がとまり、やっとゆっくり歩きだしたらなにか、こっちも落ち着いたみたいで、ひとりで手綱を持って、乗れるようになった。
 手綱で、方向を変えたり、とめたりすることが、少しずつわかってきた。
 時間にしてどのくらいだったのだろう、たぶん30分ぐらいだと思うのだが・・・・
 かくして自分の初騎乗は終わった。最初はとにかく怖くてしかたがなかったが、少しずつ慣れてきたら、もっと乗りたくなってきた。江口にせよ、ハドガーにせよ、馬に乗っている姿は実にさまになっている。疾走しなくても、自由に馬で歩けるようになりたいとしみじみ思った。
 とにかくこれで、今回の済州島の旅の目的はほぼ達成したようなものだ。

 3回目の公演を見て、またいつものように、レストランでみんなと食事してから、ホテルロッテへ向かう。江口君が、ここでやっている火山ショーを見ようという。
 ロッテホテルは完全なリゾートホテル。これだけ大きなリゾートホテルは、日本でもそうないのではないだろうか。
 8時半から15分のショーを見てから、グリーンリゾートに戻る。今日はモンゴルのウォッカアルヒを飲もうということになる。昨日あれだけ飲んで、今日は完全にへべれけ状態なので、そんな飲むつもりもなかったのだが、またいろいろ話しているうちに、気が大きくなって、もう一本飲もうということになる。
 結局また1時すぎに就寝。


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