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今月の一冊 2001年3月

サーカス&大衆芸能関係本 8冊

「回想日本の放浪芸−小沢昭一さんと探索した日々」
「夜ごとのサーカス」
「小菅一夫が見た明治大正の浅草と劇場」
「日本怪奇幻想紀行 四之巻 芸能・見世物録」
「世紀末サーカス 異形コレクション14」
「万博とストリップ 知られざる二十世紀文化史」
「見世物稼業−安田里美一代記」
「角兵衛獅子 その歴史を探る」


 今月は、去年出版されたサーカス関係や、大衆芸能に関する本をまとめて紹介します。
 実は、これは演芸情報誌として根強いファンを持つ「東京かわら版」が毎年出している増刊号「寄席演芸年鑑2001年版」の中の「2000年に出た演芸本」のために書いたコメントを転載したものです。

市川捷護 著
「回想日本の放浪芸−小沢昭一さんと探索した日々」
平凡社(平凡新書)、700円(税別)

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芸能史に燦然と輝く小沢昭一氏の「日本の放浪芸」のプロデューサーとして、この仕事を支えた著者の回想録。これを読んで痛感するのは、わずか数十年の間に、日本人がいかに多くの芸能を失ってしまったかということだ。著者も「放浪芸を採録した旅は日本の中から何かが凄いスピードで消滅していることを確認する旅だった」と語るように、70年代以降、私たちは芸能だけでなく、なにか大事なものを置き去りにしたのかもしれない。

アンジェラ・カーター 著 加藤光也 訳
「夜ごとのサーカス」(文学の冒険シリーズ)
国書刊行会、3200円(税別)

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背中に羽根を持つ大女が、空中ブランコ乗りのスターとなり、サーカス団と共に、ロンドン、ペテルブルグ、シベリアを舞台に、波瀾万丈の冒険を繰り広げるピカレスクロマン。カーターは戦後を代表する英国の作家。奇妙な人々が群がるサーカス一座の人間模様も濃厚に描かれている。

澤田隆治 編・著
「小菅一夫が見た明治大正の浅草と劇場」
テレビランド、非売品

明治後半から大正にかけて、浅草の小屋にかけられた演し物を、つぶさに報告した貴重な記録。山雀の芸、玉乗り、連鎖劇、馬芝居、あやつり人形等々、浅草という劇場空間で演じられていた、パフォーマンスの多彩さに驚かずにはいられない。澤田が朝日放送時代の先輩小菅が残した原稿を、氏の17回忌のために掘り起した芸能史の生きた証言。一般向け発売が望まれる芸能資料である。

内藤正敏、橋爪伸也 他 著
「日本怪奇幻想紀行 四之巻 芸能・見世物録」
同朋舎、1700円(税別)

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怪しげなタイトルに反し、中身は真面目な芸能探索紀行になっている。見世物小屋、生き人形、絵解き、お化け屋敷、歌舞伎の恐怖演出など9つの論考をおさめる。庶民とともにあった日本の芸能の裏面を知ることができる。

井上雅彦 監修
「世紀末サーカス 異形コレクション14」
廣済堂文庫、762円(税別)

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『竹馬男の犯罪』というサーカス小説の傑作を書いた井上雅彦が監修した日本人作家二六人によるサーカス小説のアンソロジー。サーカス=グロテスクというイメージがほとんどというのが、ちょっとなさけない。サーカスは本来もっと多彩なイメージを与えてくれるはずなのに。

荒俣宏 著
「万博とストリップ 知られざる二十世紀文化史」
集英社新書、680円

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テクノロジーの進歩を約束する万国博覧会を裏で支えていたのが、官能的な裸体を見せびらかす、美女たちであったと、意表をついた視点から描く、荒俣流文化私論。万博に多くの民衆が押し寄せたのは、未来への憧れではなく、艶やかな女性の裸体であったという説には、説得力がある。欲望の根っこはいつの時代でも変わらないのかもしれない。

鵜飼正樹 著
「見世物稼業−安田里美一代記」
新宿書房、3000円

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最後の見世物芸人、人間ポンプ−安田里美の生涯を、共感をこめて聞き語りで綴る。著者の安田への思いは、聞き書きに徹底したこと、そしてそれを詳細な傍注で裏付けした姿勢に伺える。章ごとにノート風に書かれた著者と安田との関わりの歴史が、この書にさらに奥行きを与えている。

この本についてはこちらにも書きました。

小湊米吉 著
「角兵衛獅子 その歴史を探る」
高志書院、2500円

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角兵衛獅子の故郷、新潟県月潟村に住む著者が、角兵衛獅子発祥の謎に迫る。村の成り立ちから説きおこし、独自の調査により月潟村に伝わる獅子神楽がこの芸能の原型であったことを突きとめる。角兵衛なる人物が、修験者であったこと、角兵衛がふたり存在していたことなど、大胆な仮説も随所に折り込まれている。


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