月刊デラシネ通信 > その他の記事 > クマの観覧雑記帳

クマの観覧雑記帳

山本光洋マイムライブ 『モノプレイ1』

場所 シアターブラッツ
観覧日 2001年5月22日
公演時間 1時間


 十年やってきた渋谷のジャンジャンでの公演を終え、一区切りをつけた光洋が、始動をはじめた。ひとつ大きな壁をぶちやぶったのではないだろうか。
 その糸口となっているのが、モノである。
 アクリルパイプ、ビックカメラの袋、衝立、赤い糸、ラジカセ、キューピー人形、ブラックコート、風船、巻き尺、リュック、手回しオルゴール、ハモニカが次々に現れ、光洋はこのモノたちと遊ぶ。いままでの光洋の作品は、緻密に練り上げ、どうオチにもっていくのか、そこに光洋自身、そして見る者たちの関心が集まり、なんともいえない緊張感がただよっていた。特にここ2−3年のライブではその傾向が強かった。
 しかし今回は、オチをあまり意識せず、まずモノとどう遊ぶか、さらにモノという現前とあるものに、負けないように身体でどう表現するかに終始している。例えば人形劇の人形のようになるのではなく、人形つかいの自分を、どれだけ強く出せるか、ここに今回の公演の鍵があったように思える。
 今回の公演では、まちがいなく光洋はモノと同じくらい強く舞台に立っていた。
 本人の言葉によると、いままで幕間でやっていたものを並べたので、お客さんがどう反応するのかとても不安だったといっていたが、こうした構成のなかで、光洋のギャグのひとつの特徴である、ナンセンスさが強く打ちだされ、とても良かったと思う。
 例えば、アクリルパイプに指を入れたら、とれなくなるというネタでは、どうしたらとろうかいろいろやってみて、反対側の空いている口のところをくわえ、吹いてとろうとして格闘するさまは、まさにクラウン芸の基本といえる。こうしたモノと理不尽な葛藤を演じることによって、おかしさが生れる。
 傑作は、ラジカセをつかったネタ。ちんけなラジカセを前にして、ワンワン吠えはじめる。あとで音を吹き込んでいることがわかる。吹き込んだこの音に合わせて、隠し持っていた犬を踊らせる。これには大笑いした。
 ふとした思いつきがいくつもあって、それのオチをどうするかで、結局袋小路に入り込み、ボツになったネタも多いのではないかと思う。落語が好きで、落研出身の光洋にとってどこで落とすかということが、いままでの作品つくりの中心になっていた。
 しかしこの幕間狂言のような作品を舞台にかけていくことによって、オチの呪縛から解き放たれ、ものと戯れるなかで、過程で笑わせることができることを知ったのではないだろうか。これはクラウニングの基本でもある。
 山本光洋の前に、クラウンの道が大きく開けてきたのでないだろうか。
 7月の公演が楽しみだ。


目次へ デラシネ通信 Top 前へ | 次へ