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今週買った本・読んだ本 12月15日

平岡 泰博『虎山へ』
集英社,本体 1600円(税別)ISBN4-08-781302-9
購入した動機 新聞広告で見て

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 第一回開高健ノンフィクション大賞を受賞したノンフィクション。著者の平岡氏は、この作品のもとになった関西テレビ制作のドキュメンタリードラマ『シベリアタイガーを追って』のカメラマンとして、ロシア極東の沿海州の山村におよそ100日間のロケに参加している。ロシア関係で、しかも舞台はシベリア極東、ここで自然を相手にしたノンフィクションというだけで、読みたくなり、すぐに買った。最初はかんたんに読めるかと思ったのだが、結構時間がかかってしまった。文体が硬質で、読みづらいというのではなく、かみしめて読みたくなったということがある。結果的にはこの硬質でストイックな文体が、荒々しい自然で生きる人間、そしてシベリアに生息する虎というテーマにマッチしていたと思う。とても読みごたえのあるノンフィクションだった。

 確かこのドキュメンタリーは、見た記憶がある。虎を追いかけるカメラマンの息づかいが妙に印象に残っている。これが平岡さんだったわけだ。平岡さんは、このときすでに50歳を越えていて、山の中を歩きながら虎を追うというかなりハードな仕事をするうえでは、きつい状況にあったと思う。実際にこのノンフィクションでも、体力的な限界と闘う姿が、ストレートに描かれてある。特に、川に落ちてしまい、カメラを一台ダメにしてしまうところは、自分の身体の限界を容赦なく知らされることを飾らず正直に書いている。

  シベリア極東の大自然を舞台に、なかなか目に触れることがないという虎を追い求める、テレビクルー、そしてこの案内役となったヴィーチャというウクライナ出身の世捨て人、あるいは狩りを生業にする一家という人間像をはっきりと浮き彫りしている。また時々引用される、同じところを旅したアルセーエフの『デルスウザーラ』からの引用も効果的だった。全体にストイックな姿勢を崩さず、声高にレポートするのではなく、受け身で貫かれた全体のタッチがとても良かったと思う。大自然のなかでちっぽけな存在である人間、そして生き物たちをしっかりこのタッチで書いたことで、読みごたえのあるノンフィクションになったのではないかと思う。

 やはり感動的だったのは、著者が、やっと虎と巡り合い、虎に襲われるかもしれないという、死を覚悟しながら、撮影に成功するところ。撮り終わり、ヴィーチャと抱き合うところは感動的であった。またあとがきで、さりげなく一緒の同行した若いカメラマンも、虎の撮影に成功したと書いてあったところでも、ジーンと来てしまった。


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