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クマの観覧雑記帳

済州島モンゴル馬サーカス

観覧日 2004年5月19日・20日
会場  韓国・済州島グリーンリゾート内特設ステージ
出演  モンゴル馬サーカスサーカス団
上演時間 1時間
       (前半40分中国雑技・後半25分モンゴル馬サーカス)


 900人収容する特設ステージの一番前の席で、見る。
 最初に出演者全員が馬に乗って登場し、直径26メートルのリングを疾走するオープニングを見て、身体が震えてきた。こんなことは実に久し振りのことである。自分は元来ジギド大好き人間である。東京で公演するボリショイサーカスのあっさりとした味付けのジギドにいつも欲求不満を抱いていたのが、ここでこれからどっぷりとジギドが見れる、そんな期待をおおいに盛り上げてくれるようなオープニングだった。ジギドはスピードと荒々しさ、スリルがなんといっても魅力である。通常の13メートルのリンクの倍の広さのこのステージを疾走する馬のスピード感にまず真底震えを感じた。
 全員そろってのオープニングのあとは、ムチの芸。ステージに置かれた花をムチで次々倒し、さらには女性が口でくわえた花をたたき落とす。その間6歳ぐらいのこどもが、ひとり相撲の芸人をリングに導く。この導入部はテンポ、そしてユーモアもあり、一気に観客の心をとらえる。
 それからはいよいよ個別の演者によるジギドの芸。ほんとうにたっぷりとしっかりとジギドの芸を味わせてもらった。疾走する馬にまたがったアーティストが、次々に披露するアクロバット。3回見て、3回とも感動したのが、流鏑馬のように的に弓を射抜く芸、これは見事だった。直線を走りながら的を射るのではなく、丸いリンクを旋回し、騎乗しながら、そして馬に立ちながら、百発百中で的の真ん中を射抜くのだ。
 ちなみこの芸人さんは、まじでいつも弓矢で鳥をとっていたという。
少年が馬上で描いた馬の絵(クリックで拡大) こうした荒技の数々の間に、こどものジョッキーたちが登場し、見事なジギドを披露してくれる。このこどもたちの芸が25分のショー全体のスパイスになっていた。特に13歳のこどもが、疾走する馬に乗りながら、スケッチブックをもって、リングを3周する間に馬の絵を描いてしまうのには驚いた。この絵は2回目に見たときにもらうことができたのだが、見事な出来ばえなのである。
 最初のショーを見たときはほぼ満員、しかも前の方には女子高校生らしき集団がつめかけていたのだが、ここで大人気だったのが、サンキュー手塚と似たルックスで金髪に髪を染めたイケメンの若者。彼が馬に乗ってリンクに登場する時は、いまやっているバレーボールのオリンピック最終予選でNEWSが歌を披露する時と同じようなノリで、とんでもないキャーキャーという黄色い歓声がまきあがったのにもびっくり。こうした色気を漂わせる芸人もまじえながら、25分はあっという間にすぎていく。

 楽しかった! やっぱり馬のサーカスはいいとつくづく思った。なにか魂を揺さぶられるような大地からわきあがるような鼓動を感じることができるのである。
 ビデオでしか見ていないが、フランスのジンガロのような徹底した馬の美学のようなものはないのだが、野生の馬の芸というものがひしひしと感じ取られる。
 済州島には、蒙古日本来襲の時にモンゴルが持ち込んだ馬がそのまま残っている。小さい馬体の済州馬である。ここでつかわれている馬は、この済州島で飼われている馬ばかり。みんな演技が終わると、小屋につながれるのではなく、鞍を外された馬たちは、誰に引かれることもなく、自分たちでそのまま隣接する牧場というか、高原に向かい、そこで暮らしている。
 ジンガロの馬たちはみんな美しいのだが、ここの馬たちは美しくない、みんなゴツゴツしているというか、自然そのまま、そんな馬にまたがり芸をする芸人たちも、馬と一緒にいるのがあたりまえ、そんな一体感がある。馬を征服していうなりにするのではなく、馬と一体となったショー、騎馬民族のモンゴルの芸人だからこそできるショーなのかもしれない。
 これを見たら、やはり馬に乗りたくなるよなあ。

モンゴル馬サーカスのメンバーと共に.


この済州島への旅については、「クマのコスモポリタン紀行」にも書いています。


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