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はこだて写真図書館叢書 II 長谷川濬 函館散文詩集

『木靴(サボ)をはいて―面影の函館』

長谷川 濬 詩 / 熊谷 孝太郎 写真 / はこだてフォトアーカイブスはこだて写真図書館 発行(はこだて写真図書館叢書II) / 2009年 / 2520円(税込) / 176P / 20cm
発売元・Mole(モール)へ / デラシネ・ショップ


『木靴をはいて』の表紙
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長谷川濬 函館散文詩集『木靴(サボ)をはいて―面影の函館』 はこだて写真図書館叢書 II

長谷川 濬 函館散文詩集

『木靴(サボ)をはいて―面影の函館』


長谷川 濬
写 真 熊谷 孝太郎
発 行 はこだてフォトアーカイブスはこだて写真図書館
発 売 Mole(モール)
出版予定日 2009年3月24日
定 価 2,400円(税別)
判 型 縦200ミリ 横172ミリ 176ページ 上製本

 

 寛さんから「99」とナンバリングされたあの大学ノートを手渡されたときのことをいまでも昨日のことのように覚えている。長谷川濬が、生まれ育った函館への思いを淡々と綴った散文詩からは、幼い頃に彼が見た、感じた、触れた、コスモポリタンの街、大正期の函館がそのまま甦ってくるようだった。死を間近にしていた老詩人の思いは、遠く時空を越え、半世紀前の函館に飛んでいった。無垢な魂だけがとらえることができた函館の面影が、そのノートの中に書き留められていた。函館の面影を伝えようとする言葉は力強く、そして優しい。このノートと出会ったこと、これは運命であった。

 『虚業成れり−「呼び屋」神彰の生涯』(岩波書店・2004年)の取材のため長谷川濬(1906-1973)の次男寛さんと会ったとき、別れ際に寛さんは濬が残したノートの存在を教えてくれた。寛さんがどんな思いで私に教えてくれたのかはわからない。ただこの時から私と長谷川濬の間に橋が架かったのだと思う。寛さんから借りたノートを読みながら、私は濬の戦後の魂の彷徨をともにしていた。豪放磊落と多くの人が評する長谷川濬であるが、ノートの中の彼は、傷つきやすい詩人であった。書いても書いても発表する場がないことに苛立ち悲しみ、弟四郎が文壇で活躍するのを苦々しく見ていた。書くことを捨ててもいい状況はいくらでもあった。でも彼は最後まで書くことを選んだ。その場所がこのノートであった。この恵まれなかった文学者の人生の最後の最後の時に、ミューズが立ち現れたのである。そして、ミューズはこのノートと私を出会わせることまで演出してくれた。

 私はいま『満洲浪漫(仮題)』という長谷川濬の生涯をたどった評伝を書いているのだが、これを書き上げる前になんとか彼の白鳥の歌をかたちにしたいと思った。詩の舞台である大正・昭和初期の函館を写し続けた熊谷孝太郎の写真とのコラボレーションが実現し、この散文詩を読んだブックデザイン家の西山孝司さんが、「いい本にしましょう」とこだわりにこだわったデザインで素晴らしい本に仕上げてくれた。37年間大学ノートの中に眠っていた濬の言葉は、今見事に甦ったのである。

長谷川濬の墓と大島幹雄
長谷川濬さんへの墓前への報告


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『木靴をはいて』紹介記事(クリックで拡大)
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目 次

海に出よう
思い出の谷間で
木靴(サボ)をはいて
アカシヤの木
ポプラ
人影なき海辺で
岬にて
夜中にギタラの鳴るをきく
坂のある港町
キングの自働車
はこだて五島軒界隈
防波堤
はこだてハリストス教会
登別行発動機船
火事場
登別トラピスト修道院
女に目ざめる頃
碧血碑
泳ぎのはじめ
花電車
ルルドの洞窟
啄木の墓
紫の襟
砂丘
ユニオンジャック
千人風呂
氷水
大門前
ロシヤ少年水兵
赤川村のばあや
祭の坂道
英国牧師館
初雪のあとで
ロシヤ領事館
しもやけ
団助沢

英国領事館
西洋屋敷
ピノキオ
ナポレオンの像
我が家全焼のこと
“もーわあ”と呼ぶ化物
我が兄帰国のこと
月に関する会話
アカシヤの木
水兵服
私の初めての船出
“ゲロリ”
ロシヤ文字とロシヤ人
木靴(サボ)
はこだて旧桟橋

大沼公園
カンカン虫
野ばんな遊び
ランプ
要塞地帯
中華会館
べこもち
鉄砲小路
便利屋
キャベツの丸漬け
戦艦長門入港
台町網工場
立待岬
砂丘
橇すべり
すぐりの実
藁靴
西川町
がいだが
倉庫町
のな、がぜ
つぶ
南部せんべい
丘の上の白い帆船
しさべのがにわらす

長谷川濬と函館 大島幹雄
熊谷孝太郎と長谷川濬 大日方欣一
父のノート 長谷川寛
思ひ出の兄 長谷川濬
付録 大正函館地図 長谷川濬年譜
掲載写真一覧

書 評 

●上野昂志「ヴィジュアル本を楽しむ」 (「一冊の本」2009年7月号)

2009年7月1日発売の朝日新聞社刊「一冊の本」7月号の「ヴィジュアル本を楽しむ」という連載の中で2頁、写真付きで取り上げられています。評者は評論家の上野昂志さんです。(2009.07.01)
 書評についてのデラシネ日誌

●池内紀「珍品堂目録90 望郷記――『木靴をはいて』」 (講談社「本」2010年6月号)

講談社「本」2010年6月号の連載「珍品堂目録」(90)で池内紀さんが「望郷記――『木靴をはいて』」と題した、たいへん美しい書評を書いてくださっています。(2010.05.25)
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墓前への報告