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彷書店紀行 ―アートタイムズを置いてくれる店を探して―

第3回 模索舎

 「アートタイムズ」を最初に置いてくれた本屋さんが模索舎であった。どこの馬の骨がつくった雑誌かよく確かめもせずに置いてくれたばかりか、毎号注文までいただいている。いまでは「アートタイムズ」販売数トップの本屋さんとなっている。特に第5号「野毛版平岡正明葬送パレード」は、最初に40冊の注文をもらい、それだけでもびっくりしたのに、納品後3ヶ月もしないうちに、さらに20冊の注文がきた時には、思わず「嘘だろうと」と、うれしいはずなのに信じられなかった。思わず頬をつねってしまった。「うちは平岡さんものは強いんですよ」と店の人はいうのだが、それにしてもこの売り上げ数、驚異的ではないか。

レジ横に鎮座するアートタイムズ さてそのわが「アートタイムズ」は、模索舎のレジカウンターの脇にある雑誌コーナーに鎮座している。この場所、実に居心地がよさそうである。ここは我が家みたいなそんな風な顔をしている。実際、大手書店にはない本ばかりが書棚を埋めるこの模索舎は、「アートタイムズ」にとって居心地のいい場所であることは間違いない。一度有隣堂本店の雑誌コーナーに置かせてもらったことがあったのだが、売れ筋の雑誌の中にすっかり埋没し、存在感をまったく示せず、とても可哀相な思いをさせた(その時は一冊も売れず全冊返品された)。それに比べると、ここではしっかり自己主張しているのがうれしい。売れる本しか置かない本屋の中では埋没するが、個性的な本がいっぱい並ぶところではその個性を発揮できるなんて、なかなかやるじゃないかと思う。せっかくみんなでつくった雑誌、さらに売れるかどうかは無視して好きなものをつくっているのだから、この個性を生かしてくれる本屋さんに置かれる方がいい。

「模索舎」入り口 新しい号ができると、送るのではなく、直接納品するようにしている。自分が勤務している会社から近いとか、宅急便代を節約したいということもあるのだが、毎回足を運ぶのはこの個性的な本屋さんを訪ねるのが楽しいからにほかならない。新宿御苑のすぐ近く、新宿通りの喧騒から離れたところにひっそりと佇むようにこの本屋さんはある。入り口の手書きの看板がいい。明治時代の自由民権運動の流れを組むような、反体制をしっかり主張している、そんな感じが漂ってくる。
 自分は高校まで仙台で暮らしていたのだが、その頃足しげく通った本屋さんが、駅前のデパート「丸光」の裏にあった今はなき八重洲書房である。あの売場にあったのと同じ匂いが漂ってくる。模索舎では、絶対マイナーでもある左翼系の雑誌や新聞が店の奥に陳列されているのだが、同じように八重洲書房にもこの手の機関誌が並んでいた。この雰囲気、ノスタルジーなどといってはこうした機関誌をつくっている人たちに申し訳ないが、そんな匂いが立ちこめている。

模索舎の原発本の棚 今回訪ねたとき目を引いたのは、原発本。福島のことがあって、再版されたものも多いのだろうが、ここの本棚でずっと長らく眠っていた本もこのなかにはあったのではないかと思う。それが幸か不幸か福島の事故によって陽の目を見ることになったのだろう。

 帰りがけ、入り口近くの棚を見ると、模索舎にはおよそ似合わない、大出版社集英社の新刊本がはみ出さんばかりに棚の一列を占領していた。思わず店の人に「なんで集英社の本がこんなにあるんですか」と聞くと、近々この本の著者の鈴木遥さんと南陀楼綾繁さんが出席してのイベントがあるからだという。本のタイトル『ミドリさんとカラクリ屋敷』がとても魅力的だったこともあって、思わず購入してしまった。自分もネットでも本をよく買っているが、こうして本屋さんで何の予備知識もなく、出会った本に誘われて思わず買ってしまう、これが本来の本と読者の関係ではないかと思う。
 そしてこんな風に出会った本が、とてつもなく面白かったりすることがよくある。まさにこの『みどりさんとカラクリ屋敷』がそうであった。こんな素晴らしい本との出会いの場までつくってくれた模索舎に感謝、感謝・・・

 さて、次回訪ねる時は、どんな本と出会えるだろうか?






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