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2004.04.27 / 更新2012.10.23

虚業成れり -「呼び屋」神彰の生涯-

虚業成れり-「呼び屋」神彰の生涯-

大島 幹雄 著

出版社:岩波書店

発 行:2004年

体 裁:400頁 / 四六判

ISBN:978-4000225311

定価(税別):2,800円

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 昭和29年秋、東京。ふと口ずさんだロシア民謡からすべては始まった。何ももたない青年がドン・コザック合唱団の来日を実現し、ボリショイバレエ、レニングラード・フィルなど「幻」と思われたアーティストを次々と招聘して旋風を巻き起こす。栄光、破産、そして居酒屋経営での再起。「戦後の奇跡」神彰の波瀾の生涯を描く。―――

 『デラシネ通信』で2年以上にわたって連載していた神彰の評伝が本となりました。
私にとってもいろいろな意味で大きな意義をもつ本となりました。デラシネ通信から生まれた本ということで、感慨深いものがあります。

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●本書の中に、一部誤った記述がありました。訂正とお詫び

目 次

 プロローグ

第一章 幻のはじまり
 1 虚業成れり――ドン・コザック招聘秘話
  バイカル湖の畔/有吉との最初の出会い/わが虚業成る/クライスラーに乗って
 2 ドン・コザック旋風
  切符売り切れ/ドン・コザック合唱団来日/ドン・コザック初演/日本列島縦断/
  夢の後始末、そして出発/函館の街から

第二章 けものたちは荒野をめざす
 1 函館から満州へ――コスモポリタンが棲む街
  神彰の少年時代/大陸への憧れ/函館商業時代――絵画開眼/修学旅行の冒険
 2 たそがれの満州
  ハルビンからの手紙/上野破魔治の証言/アートフレンドの出発点――ハルビン/
  ハルビン学院/長谷川濬の満州/それぞれの終戦/敗戦の意味

第三章 赤い呼び屋の誕生
 1 侍たちがやってきた
  ふたりの侍の登場/神が消えた!?
 2 鉄のカーテンをこじ開ける
  狸穴通い/鉄のカーテンの向こう/日ソ国交樹立の影で/ソ連のテスト
 3 ボリショイの奇跡
  ボリショイ旋風/ジェット機でやって来たレニン・フィル/赤い国での淡路人形芝居/
  ボリショイサーカスの衝撃

第四章 驚異の素人集団「アートフレンド
 1 七人の侍たち
  新宿柳町の梁山泊/宣伝屋詩人――木原啓允/革命の年に生まれた石黒寛/
  大陸育ちたち/スペシャリストたち/脇役たち/女子社員たち/ある断絶
 2 俺はディアギレフになる
  財団法人として再出発/芸術を愛するすべての人へのメッセージ『アートタイムス』/
  呼び屋から芸術交流師へ/プラハの街角で/チェコサーカスの悲劇
 3 世界の恋人は来なかった
  世界の恋人がやって来る/公演延期から公演中止へ
 4 革命の時
  レニングラード・バレエと安保騒動/黒い陶酔――アート・ブレイキー/
  輝かしい一年の始まり/キオの奇跡/謎ときに挑戦/トリックの秘密
 5 電撃結婚
  可愛い男のプロポーズ/俺は鉄人ではなかった/電撃結婚/新婚生活

第五章 「赤い呼び屋」の挑戦状
 1 梟雄たち――興行戦争の実態
  高度経済成長時代へ/三人の呼び屋/ビートルズを呼んだ男―永島達司/
  不運の呼び屋―樋口について/ドルの闇に葬られた男/呼び屋の時代の終焉
 2 アメリカの罠
  アメリカからの手紙/地(痔)から生まれたサーカス/神がつくった西部劇ショー/
  地に落ちたサーカス
 3 不信のとき
  不信のはじまり―神さんから理事長へ/ソ連から中国へ/ひとりの男の退場/
  シャガール展―ひとつの終着点/ぼくはボタンをおした
 4 破綻と破産
  内乱勃発/仲介の動き/電撃離婚と倒産/離婚と破産についての声明/離婚の本当の理由/木原の後悔

第六章 どん底から
 1 銀座五丁目の雑居ビルから
  私の呼び屋事始め/呼び屋の東大/大川の呼び屋事始め
 2 復活のスピードウェイ
  蘇った呼び屋の賭け/空白の二年間/借金と資金/富士サーキットの暁/祭りのあと
 3 異端児たち
  神のもうひとりの片腕――康芳夫/カシアス・クレイ招聘の失敗/
  アラビアン魔法団のトリック/『血と薔薇』創刊/天声出版の設立/『血と薔薇』誕生秘話/
  矢牧追放/幻の『血と薔薇』第四号/神彰、二度目の倒産

第七章 天女との出会い
 1 運命の出会い
  最初の出会い/政治家の娘/二度目の結婚/どん底からの新生活/勢を恃して動に転ずる/
  「九変」と「無」
 2 復活と死
  占いをする女/居酒屋「北の家族」誕生/義子の死

第八章 消えた幻を追いかけて
 1 アートライフ――居酒屋の時代
  北の家族旋風/九日の会と『北声』/三度目の結婚と有吉の死/若き営業部長の回想/
  居酒屋はアートであった/アサヒビールとの提携/虚業成れり/最後の楽園―幻のココロコ/
  離婚と孤独
 2 父と娘
  投函されなかった二通の手紙/再会/娘にとっての神彰
 3 幻談義
  「幻談義」誕生/「幻談義」と画家たち/北帰行/万平追跡
 4 幻の終焉――鎌倉から函館へ
  一枚の絵との別れ/海と桜と鎌倉山/真夏の告別式/立待岬へ

 エピローグ

AFAが招聘した主な公演
あとがき

書 評

出 版

 ★印は書評ページに転載しています。

Web

 以下はリンク切れ(2012.02.12現在)

レビューのあるWebショップ

訂正とお詫び

『虚業成れり』の本文中、事実に反し、読者に誤解を与える箇所がありました。
ここに訂正し、謝意を表明させていただきます。

 本書第5章「赤い呼び屋の挑戦状」のなかのAFA解散に関連する部分で、神彰自身が「週刊新潮」(1964年6月22日発売)に発表した『離婚と破産についての声明』と題された中から以下のような一文を引用している部分があります。(本書221ページから222ページ)

「アート・フレンドは英語なので中国では日本国際芸術交流協会と云う訳名を使った。木原君たちは、まず、この名称を半分盗んで会社を設立し、更に呆れたことにはアート・フレンドの仕事も盗んでいった。
 今やっているピカソの油絵展がそれだ。私は、瀬木慎一君までが、彼らと呼応して、偸盗を働くとは思わなかった」

というくだりです。

 ここで神彰が言及しているのは、1964年7月10日から開催されることになっていた『ピカソ展-その芸術の70年』のことです。神は、この展覧会が、富原や木原が新しく興した会社である芸術交流協会が行っていると思い込み、その前提で書いているのですが、実際は、芸術交流協会はこのピカソ展にはまったく関与していません。ピカソ展は毎日新聞社と国立近代美術館の共催で行われたものでした。文中に名前をあげられている瀬木さんは、AFAとも芸術交流協会とも無関係に、独自の立場でこの展覧会に尽力されたと伺っています。

 本書では、この事実にはまったくふれることなく、神彰の声明文のみを引用しているため、本を読まれた方は、芸術交流協会がピカソ展を行ったと思われたと思います。これは著者である私のミスです。この展覧会が、芸術交流協会とはまったく関係なく開催されたものであることを明記すべきでした。神彰のこの発言が名誉棄損にあたるとし、瀬木氏は東京地検に直ちに告訴し、受理され裁判になるという段になり、神がこの発言を取り消し、全面的に謝罪していたということです。こうしたことにふれず、週刊新潮の記事をそのまま引用したことにより、瀬木慎一氏に、たいへんご迷惑とご不快をかける結果となりました。ここで読者の皆様と瀬木氏に謹んでお詫び申し上げます。

 本書の重版の際には、この部分に関して何らかのかたちで訂正したいと思っております。

大島 幹雄