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クマの読書乱読 2002年12月

読書乱読スペシャル
今年のベスト5


『ヨーロッパ覇権以前−もうひとつの世界システム』 Amazon.co.jp アソシエイト
『遙かなるサマルカンド』 Amazon.co.jp アソシエイト
『聖の青春』 Amazon.co.jp アソシエイト
『忘れられた日本人』 Amazon.co.jp アソシエイト
『シベリアの旅』 Amazon.co.jp アソシエイト

 今年読んだ本を振り返ってみると、わりと硬めの本、特に歴史関係の本を多く読んでいたことがわかる。それも西欧ではなく、イスラムやアジアに視点をおいたものを読んでいた。そのきっかけになったのは、『ヨーロッパ覇権以前−もうひとつの世界システム』(上・下)を読んでからだと思う。これは13世紀を舞台にしたダイナミックな人とモノの流れから世界システムを解析したもので、まさに目から鱗の連続だった。
 中央アジア探検ものもよく読んだ。この中では古本で購入した『遙かなるサマルカンド』(リュシアン・ケーレン編 杉山正樹訳 原書房 1998年)が面白かった。15世紀カスティリャ王国(スペイン)使節団が、ティムール・ベックが支配するサマルカンド王国を訪問する壮大な旅行記をまとめたこの本は図版や地図も満載で、地中海から、黒海、カフカースを経て、サマルカンドまでたどった使節団の旅を忠実に追うことができる。原色の輝きがあった。
 今年はノンフィクションをあまり読まなかったが、その中でも文庫になった『聖の青春』(大崎善生著、講談社文庫)には圧倒された。自分もいま神彰の評伝を書いているわけだが、正直いってこんな評伝を読んでしまうと、降参しますといいたくなり、いま書いているものがちっぽけなものに思えてきてならなかった。作者と対象となった夭逝した天才棋士との距離がいい。大崎にしか書けなかったものである。何度か泣かされてしまった。 ノンフィクョンの分野に入れていいと思うが、宮本常一の『忘れられた日本人』(岩波文庫)も、ここ数年読んだ作品では群を抜いていた。やはりこうした古典的な名作は読んでおくものである。取材しながら日本中を旅する宮本の視線の柔らかさ、聞き手と語り手が一体となった語り口、なんでこんないいものをいままで読まなかったのだろう。この本を読むきっかけを与えてくれたのは佐野眞一の『私の私的ノンフィクション術』だった。感謝しなくては。
 ルポルタージュのなかでは、『シベリアの旅』(コリン・サブロン著 鈴木主税・小田切勝子訳、共同通信社、2001年)が圧巻だった。ソ連という大国が解体したあとの、いまと過去が交錯するシベリアを、辺地にバスや船をつかって旅しながら伝えるルポだった。縦横無尽にシベリアを歩きながら、生身の人間と交流することで、奥行きの深いルポになった。
 今年でた本ではなく、今年読んだ本のベスト3ならぬベスト5は、以上の5冊、いい本に出会えた一年だったといえるかもしれない。


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