2012.11.07

『満洲浪漫-長谷川濬が見た夢』書評

『満洲浪漫-長谷川濬が見た夢』

 長谷川濬の評伝『満洲浪漫-長谷川濬が見た夢』に寄せられた書評・感想などをご紹介します。

 ★メディアに掲載された書評はこちら

→書籍情報


田中益三さん(せらび書房『朱夏』編集)

 知る人ぞ知る満洲文化に鋭く迫っている雑誌『朱夏』(せらび書房刊行)の編集をされている田中益三さんから読んですぐにお手紙をいただきました。田中さんは先日私が報告した「桑野塾」に初めて参加され、その時『満洲浪漫』を購入していただきました。二日でお読みになったとのことです。いただいた手紙のうち、この感想のところを田中さんの承諾を得ましたので、ここに掲載させていただきます。
 『朱夏』には『満洲浪漫』を書くとき、ずいぶんお世話になりました。満洲文化にほんとうに詳しい田中さんには、ぜひお読みいただきたいと思っていました。こうして読んでいただき感想をいただけたことをとても喜んでおります。

 『満洲浪漫-長谷川濬が見た夢』は、130冊にのぼる、長谷川濬のノート「青鴉」をべ一スにしているところが強みですし、さすがに七年間かけて取材した成果がよく出ています。
 長谷川濬の全体像に迫っているところが川崎賢子さんのものとは違いますし、「見事なる敗北者」という特有のニュアンスも理解できます。
 導入部で神彰と長谷川濬との接点もさることながら、この二人が現在の大島さんの立ち位置にかなりの影響を与えていることが分かり、それを面白く思います。学問より人間です。第一部第一章で、コスモポリタンの街、函館を彷彿とさせ、第二章で、狂おしい長谷川の青春時代にスポットを当てたのもいいですね。第二部~第五部まで、長谷川の満洲時代に大きく紙幅を割き、多くの人物と場所を交えて論じているのは小気味よいことですが、これだけ多方面にわたることを進めるエネルギーと情熱の在り方には敬服します。
 長谷川の「青鴉」のイメージが逸見猶吉の詩語からきていることは想像に難くないのですが、大島さんは「鴉に青を冠しているのは、この世に存在しないもの、儚いもの、失われたもの、あるいは幻、そんな意味合いをこめているのではないだろうか」(p227)としています。なるほどと思いました。
 第六部は長谷川の最後までを見掘えたものですが、長谷川の「北の磁針」を基底に据え、戦後の生き方を問うています。長谷川濬の戦後から死までが、初めで論じられたということですね。大島さんによって書かれるべくして書かれた章でした。長谷川の本質が「ブラジャーガ」というのも的を射ています。ともかく、こうして一著にまとめられたのは真に喜ばしいことです。畏友、西原和海なら何と言うか、また、秋原勝二さんなら何とおっしゃるかな、と思いました。以上が私の拙い感想です。
 そうこうしているうち、本日『アートタイムズ』9号が届きました。これから読ませていただきます。満映のところは、コピーして満映の生き残り、岸富美子さんに送ってあげよう、と思っています。

田中益三(満洲文化研究)