2015.01.20

第5回 古本 なべや

東京・中野新町「古本なべや」
 私がゲスト出演したラジオ番組を聞いて「アートタイムズ」を置きたいと連絡をくれた中野新町・鍋屋横丁の「古本なべや」さん。
 近所の人も猫もふらっと寄りたくなるような、下町の古本屋さんだ――

「はじめまして。いきなりのご連絡失礼いたします。
 東京中野で古本屋をやっております安室と申します。7月末に開店いたしました。最近やっとこ棚も埋まってきて一段落したところで、なんかじぶんの好きなもの、店のアクになるようなものを置きたいと思い始めました。
 そんな矢先、ラジオで大島様がお話しているのを偶然拝聴し、非常に興味をそそられ 、このページにたどりつきました。大学で演劇を学んでいたのもあり、演劇・芸能などを強化したいと考えていたので、『アートタイムズ』を置かせていただけるかとメールを差し上げた次第です。
 お忙しいとは思いますが、このメールがお目に留まれば幸いです。何卒宜しくお願い申し上げます。」
 こんなメールが届いたのは今年(2014年)の11月1日だった。久米宏さんのラジオ番組「ラジオなんですけど」のゲストとして出演したのは10月18日だったが、思わぬ反響であった。「アートタイムズ」を置きますと名乗りをあげていただくこういう問い合わせが一番うれしい。

 ということで早速お店を訪ねることにした。
 お店は中野新町駅から5分ぐらいのところにあるという。丸ノ内線の中野新町は、いままで縁がなく一度も降りたことのない駅だった。地下から上にあがると中央線というか丸ノ内線の高円寺とか南阿佐ヶ谷や荻窪周辺と同じような風景が広がる。なんとなく親近感を感じる風景である。
 お店は鍋屋横丁から脇に入ったところにあるという。この鍋屋横丁、どことなく下町の雰囲気がただよってとてもいい。「なべや」という古本屋にしては珍しい屋号も、この横丁からとられているという。

 悪い癖でちゃんと地図を見ずに、鍋屋横丁のどこかの筋を曲がったところというイメージだけで行こうとしている。案の定道に迷うことになったのだが、横丁の魅力が満載で、歩いていてとても楽しかった。銭湯があったり、裏通りなのにもかかわらず飲み屋が立ち並んでいたり、それもいかにも近所の人しか相手にしませんという佇まいのところだったりしていて、歩いていてあきない。
 同じところもぐるぐる回りながら「なべや」探しをしていたのだが、大きな目安は、フェイスブックにのっていた写真に看板の下に猫が二匹いたこと。猫がいそうな横丁なはずである。そのうちにちょっとした空き地の前に、明かりが見えてきた。ああいう空き地って猫がいそうである。これがビンゴ! 目指す「古本なべや」さんであった。イメージより明るく、そして大きなお店だった。

「古本なべや」きれいで明るい店構え

「古本なべや」
きれいで明るい店構え

天井近くにレコードが飾られた店内

天井近くにレコードが
飾られた店内

雑誌のディスプレイ

雑誌のディスプレイ

絵本の棚の上にはビクターの犬が

絵本の棚の上には
ビクターの犬が

店長の安室さん

店長の安室さん

私の好きな世界の本が並ぶ棚

私の好きな世界の
本が並ぶ棚

 お店には店長の安室亜弥さんがおられた。挨拶をしてから持ってきた「アートタイムズ」を納品、それからいろいろお話をしながら店内を見せてもらう。
 80年代とか90年代の雑誌華やかな時代のころの雑誌と上に飾られているレコードジャケットが目を引く。カウンターの前には金子光晴や沢木耕太郎の旅本が表紙が見えるように立てられている。この一角に置かれている本は、まさに私の好きな世界。安室さんも「私も好きな世界です」と言っていたが、その押し出し方が本の置きかたでわかる。
 ロシア関係とか演劇の本は結構自分のとかぶっているなと思ったら、桑野塾の常連さんであるT教授の本だという。安室さんはかつて大学時代にT教授の授業をとっていたという。またこんなところで繋がりがでてくる。これがまた楽しい。
 室生犀星の「ハルビン詩集」と、「道化の宿命」を購入。いい本をとてもお得なお値段でゲットすることができた。

 残念ながら看板猫とは会えなかったが、とてもいい時間をすごすことができた。安室さんは古本屋で7年働いて、今年の夏に店を出したという。この鍋屋横丁にもずいぶん長い間住んでいるとのことだったが、それでこの店が決してこの界隈で違和感がないのだろう。
 そういえばフェイスブックに毒蝮三太夫とのツーショットがあったがと尋ねると、「TBSラジオが大好きで、そのとき近くの銭湯にTBSラジオの中継で蝮さんが来ているというので、駆けつけ一緒に撮った写真」だという。なにか下町ぽいなあ・・・
 お邪魔しているときお客さんがひとり訪ねてきて、「誰かの誕生日にいいものない」と聞いていたら、即座に安室さんは品物というか本を選んで薦めていた。「いいもの買えたわ」と喜んでお客さんが帰ったあと、「実はいまの人とは近くの飲み屋で会って知り合い、こっちは名刺を渡したので、向こうは私の名前は知っているけど、あの方の名前は知らないんです」という。なんかこれも下町ぽっくていい。猫が寄ってきて、近所の人たちが気楽に寄れる古本屋さん、そんな気さくで入りやすい感じが、とても気に入った。
 こういうところで誰か見知らぬ人が「アートタイムズ」を手に取り、買ってくれるなんてことがあったら、とても素敵ではないか。なにかとてもあったかいものを感じながらの帰り道であった。

 

古本 なべや
〒164-0012 東京都中野区本町4-22-13 宇野マンション102
電話とFAX 03-6382-4322
Webサイト:http://nabeyabook.jp/
FaceBookページ:https://ja-jp.facebook.com/nabeyabook