アートタイムズ No.10
「サーカス学」出帆!
テントの向こうに広がる知の森には、
たくさんの数奇な人生がかくされている
「サーカス学」がいよいよ船出します。
「サーカス」という言葉のなかった太古の昔から、世界中のあらゆる町で庶民を魅了してきたこの芸能。
芸術表現のひとつとしてのサーカスを深く掘り下げることも「サーカス学」ですが、サーカステントにいくつもの入場口があるように、「サーカス学」にもいろいろな入口があります。
文学、美術、音楽、歴史、政治、社会、科学、フォークロア……
さまざまな切り口からサーカスにアプローチすることで、新しい世界が見えてきます。
本誌6号でJ・コヴァックと三原文が追った軽業師・興行師の「リズリー先生」。
日本、アメリカ、そしてヨーロッパやアジア・オセアニアまで席巻した先生の活躍ぶりを追っていくと、幕末の日本や、同時代の世界の新しい姿が見えてきました。
今号では、さらに進化したリズリー先生とその周辺の研究をはじめ、日米独露の研究者による「サーカス学」の最新の成果をお届けします。
サーカスを通じて世界を見ること、それが「サーカス学」なのです。
そして、サーカスはエンターテインメントですから、あくまでも愉しく、知る喜びを求めていきます。
サーカステントの向こうにひろがる知の森を彷徨ってみませんか?
そこではサーカスで生きた/生きている人たちの生きざまや熱気も感じられることでしょう。
人々のぬくもりに満ちた知の世界がここにあります。
[ ▲ページtop | ▼目次 | ▼関連情報 | ▼書評 ]
目 次
エピグラム 表紙裏
王健「尋橦歌」より
特集:「サーカス学」出帆! 2
幕末の日本で見世物興行師になる ハーマン号に乗り込んだ人々 三原 文 4
『日本人登場』(松柏社、2008年)や本誌6号「サーカス学」誕生で、幕末の日本を飛び出して世界を熱狂させた日本人芸人たちを活写した三原文。1867年4月に横浜へ入港したハーマン号の乗客名簿から日本人芸人で一山当てようと暗躍した欧米人たちの姿をつぶさに浮かび上がらせ、英米に残された写真や公演チラシから日本人一座の実像を丹念に探る。
奥田弁次郎とバロフスキイ 資料から見えてきた明治のサーカス興行の舞台裏 大島 幹雄 15
大阪の一大歓楽街「千日前」を作った男として知られる奥田弁次郎。二代目の徳次郎が残した「ニコライバロフスキイ一座興行計算簿」が子孫によって発見されたことで、当時の新聞記事からは見えなかった興行の舞台裏が見えてきた!
◆世界のサーカス学はいま
アメリカ 劇場を出れば涙雨 フィラデルフィアのリズリー一家 ロバート・H・セイヤーズ 24
本誌6号の小伝でアメリカ・日本・ヨーロッパをまたにかけた大活躍が紹介された「リズリー先生」。彼の手の上で舞っていた2人の息子たちもまた、興行の世界で波乱の人生を送っていた! 翻訳はもちろん、三原文。
ドイツ ドイツのサーカス 一九四五年から現在まで ギーゼラ・ヴィンクラー 40
東西に分断された戦後ドイツのサーカス界は、それぞれ異なる社会情勢の中でさまざまな模索を続けてきた。巨大なサーカス・グループからファミリー経営のサーカス団まで、ドイツの戦後サーカス史全体を俯瞰し、サーカス界の潮流を考察する。
ロシア コスチュームの可能性を探る サーカス博物館の収蔵品から アンナ・M・ズプコワ 49
ロシアのサンクトペテルブルグ国立ボリショイサーカスに併設されたサーカス博物館は、サーカスに関するあらゆる資料を集め、総合芸術であるサーカスをより発展させるための実際的な情報提供を行っている。視覚効果の重要な要素のひとつであるコスチュームに焦点を当て、さまざまな制約の中でデザイナーたちが生み出してきた成果を紹介する。
■私のサーカス逸品
① 大塚 仁子 小説「夜と朝のあいだの旅」 39
余命一年と宣告されたナビルから届いた一通の手紙――「胸躍るサーカスと一緒に旅したい」。シリアに生まれドイツへ亡命した作家ラフィク・シャミによるサーカス好き必読の書。
② 大島 幹雄 映画「レスラーと道化師」 48
実在のサーカス芸人2人をモチーフに、ボリス・バルネット監督が描くサーカスに生きる人々の愛と友情。
③ 芹澤 桂 ヌーヴォー・シルク サーカスシアターBINGO 54
子供向けじゃない、けばけばしくない、かっこいいサーカス――それがウクライナのサーカスシアターBINGO!
【対談】「サーカスの世界」から「詩的言語としてのサーカス」へ 桑野 隆×大島 幹雄 55
クズネツォフ『サーカス―起源・発展・展望』の訳者でもある桑野隆と本誌・大島幹雄が、「サーカス学」が目指すべき次なる地平を探る意欲的対談!
Circus Book Review 三原 文 “Professor Risley and the Imperial Japanese Troupe” 62
「出て来てよ、リズリー先生!」と題し、“Professor Risley and the Imperial Japanese Troupe”の著者Frederik L. Schodt氏とのやりとりのなかで浮かび上がった「リズリー先生ってどんな顔?」という謎に迫る。なんと本誌校正中、ついにその謎が解明されちゃった!
【小説】 俺はマスト 芹澤 桂 64
旅から旅へのサーカステントの中に生まれる、小さなロマンス。サーカスを愛する新進小説家による本誌書き下ろし第2弾!
今月の一杯 古書カフェ「くしゃまんべ」 豚丼 76
東京・王子の住宅街に忽然と現れた古書とカフェのお店「くしゃまんべ」は、まごころいっぱいのホットミールでサーカスや大道芸を愛する人々を包んでくれる。
[広告] こぶし書房『サーカスは私の〈大学〉だった』 23
次号予告&バックナンバー
編集後記
[ ▲ページtop | ▼目次 | ▼関連情報 | ▼書評 ]
関連情報
関連書籍
「アートタイムズ」6号 「サーカス学」誕生
発行人:大島幹雄 / 編集長:永重法子 / デラシネ通信社 / 2010年 /定価800円 / 本文60P / B5判
10号でたびたび言及される「あの」リズリー先生の小伝をはじめ、さまざまな角度から「サーカス学」を模索する意欲的な論考集。アメリカ・ドイツ・ロシア・日本のサーカス学者列伝とサーカス関連の文献資料リスト「サーカスの本棚」も。
[ ▲ページtop | ▼目次 | ▼関連情報 | ▼書評 ]