第81回~第90回 桑野塾の開催概要と内容
第81回~ 桑野塾の開催概要と内容です。
- 第81回 ●「ダヴィド・オイストラフの初来日 芸術の“鉄のカーテン”が開くとき」梅津 紀雄
- 第82回 ●「ソ連秘密警察幹部(スターリンの寵臣)の日本亡命 ~現下のロシアによるウクライナ侵略を遠景に捉えながら~」上杉 一紀
- 第83回 ●「国民総抵抗としてのウクライナ戦争~そしてわが祖国 日本の「平和主義」~」高世 仁
- 第84回 ●「侵攻3年、戦時下のキーウで見たもの~苦境で結束するウクライナの人々~」石井 将勝
- 第85回 ●「『舟 北方領土で起きた日本人とロシア人の物語』について」樫本 真奈美
- 第86回 ●「民族の平和的共存は可能か:言語学者ボードアンの非戦論」桑野 隆
- 第87回 ●「ユダヤの放蕩息子、マルク・シャガールの芸術世界」角 伸明
- 第88回 ●「ウクライナ侵攻下のロシア駐在体験&政治とバレエについて」中村 有紗
●「石巻の桑野塾――石巻学と石巻学プラスワンの10年」大島 幹雄
第81回
●「ダヴィド・オイストラフの初来日 芸術の“鉄のカーテン”が開くとき」梅津紀雄
- 2024年9月28日(土) 午後3時
- 早稲田大学戸山キャンパス36号館 581教室
●「ダヴィド・オイストラフの初来日 芸術の“鉄のカーテン”が開くとき」梅津紀雄
ダヴィド・オイストラフ
(Давид Фёдорович Ойстрах 1908-1974)
写真:Oistrakh in 1972 英語版Wikipediaより
https://en.wikipedia.org/wiki/David_Oistrakh
都体育館での演奏会
CD「オイストラフ ライヴ・イン・ジャパン1955」
(オクタヴィア・レコード)
1955年、ヴァイオリニストのダヴィド・オイストラフがソ連から来訪した。訪日以前から「奇跡の演奏家」として喧伝されていたオイストラフはその期待に十分に応える演奏会を行った。この結果として、日本側はソ連の芸術文化に開眼し、ソ連側は芸術を受け入れる日本の潜在力を理解し、その後の交流の展開の基礎が築かれることになった。
この重要な要因の一つは、もちろん、オイストラフの卓越した技量にあったことは疑いないが、それに加えて、来日のタイミングも絶妙なものであった。彼は戦後ソ連から初めて訪れた音楽家であって、日ソの国交回復を翌年に控えていた。そしてそれはスターリンの死の2年後でもあり、スターリンから遅れて2日後には、日本で多くのヴァイオリン奏者を育てたモギレフスキーも亡くなっていた。
こうした事情を照らし合わせ、定期刊行物やアーカイヴ資料を参照しながら、彼の初来日の意義を改めて検討してみたい。
●梅津 紀雄(うめつ のりお):
1966年福島県生まれ。埼玉大学・工学院大学ほか非常勤講師。表象文化論、日露文化交流史。
著書に『ショスタコーヴィチ 揺れる作曲家像と作品解釈』(東洋書店、2006年)、共著に『自叙の迷宮 近代ロシア文化における自伝的言説』(水声社、2018年)、共訳著にフランシス・マース『ロシア音楽史 《カマーリンスカヤ》から《バービイ・ヤール》まで』(春秋社、2006年)ほか
第82回
●「ソ連秘密警察幹部(スターリンの寵臣)の日本亡命
~現下のロシアによるウクライナ侵略を遠景に捉えながら~」上杉 一紀
- 2024年11月16日(土) 午後3時
- 早稲田大学戸山キャンパス36号館 682教室
●「ソ連秘密警察幹部(スターリンの寵臣)の日本亡命
~現下のロシアによるウクライナ侵略を遠景に捉えながら~」上杉 一紀
フルシチョフによる「スターリン批判」(1956)に20年近く先駆けて、他国には厳重に秘匿されていた恐怖政治の実態を、日本から世界に向けて告発したソ連秘密警察の高官がいた。日中戦争勃発のタイミングで、NKVD(内務人民委員部)の中央幹部から極東地方本部のトップに転出したゲンリフ・リュシコフだ。ウクライナ生まれのユダヤ人。彼の名は、緊迫する満ソ国境を舞台に起きた亡命事件の主役として当時の日本人に強い衝撃を伴って記憶されたが、やがて忘れられた。
唯一神としての地位を没するまで保ち続けたスターリンは、側近と呼んでいい党、軍、秘密警察の高官を容赦なく使い捨てた。忠誠心を試す形で、国民の憎まれ役をあれこれ務めさせておいて、その口封じをするかのように銃殺、あるいは収容所送りにする。前年まで確かにスターリンの寵臣だったリュシコフさえ、さすがに動揺し葛藤した。熟考の結果が、一か八かの国外逃亡だった。1938年夏のことだ。
トロツキーを除けば、ソ連史上最高位の海外亡命者(=裏切者)とされるリュシコフのソ連邦論、人柄、亡命後に果たした役割、私生活、そして最期の時はどうだったか。伝説のスパイ、ゾルゲはモスクワからの厳命を受け、リュシコフ関連情報を掴もうと危ない橋を渡る……。
日ソ秘密戦の観点から、ソ連崩壊後の研究成果を踏まえ、歴史の闇に消えた亡命者の軌跡をあらためて辿り直す。その試みはおのずから、現下のウクライナ侵略戦争をも遠景に捉えるものになるはずだ。
●上杉 一紀(うえすぎ かずのり):
日本放送作家協会会員。1953年札幌生まれ。早稲田大法学部卒。元北海道テレビ放送勤務。主にニュース、ドキュメンタリー制作など報道畑を歩いた。著書に『ロシアにアメリカを建てた男』(旬報社)、『ロマノフの消えた金塊』(東洋書店新社)、『ソ連秘密警察リュシコフ大将の日本亡命』(彩図社)
第83回
●「国民総抵抗としてのウクライナ戦争
~そしてわが祖国 日本の「平和主義」」高世 仁
- 2025年2月1日(土) 午後3時
- 早稲田大学戸山キャンパス36号館 681教室
●「国民総抵抗としてのウクライナ戦争~そしてわが祖国 日本の「平和主義」~」高世 仁
23年秋にウクライナを取材した。強く印象づけられたのは、汚職だらけの政府への不信感と、その政府をあてにせずに国民一人ひとりが自ら戦争を支えようとする熱意だった。マックスという青年は大学を休学し、危険な前線近くまで出かけて、兵士と住民に食糧や薬品を届けるボランティア活動をしていた。いつ死んでも不思議でない状況で活動を続けるわけを聞くと「私の同胞とこれから生まれてくる子どもたちのため」と答えた。
日本であまり知られていないのは、ウクライナが戦争と並行して初めての国民国家の建設を進めていることだ。そしてその国家統合の原理は民族的(エスニック)なものを卒業して市民的(シヴィック)なものへと移行している。ウクライナの人々の抵抗精神を支えているのは、ロシアのような国を作りたくないという強い意思である。
私の取材から見えたウクライナ戦争の実態を語りたい。もう一つ問題提起したいのは、いま進行中の戦争を日本に住む私たちがどうとらえるのかである。
帰国後、ウクライナの人びとの戦いを語ると、「ここが日本でよかった」という感想が返ってくる。戦争の当事者が“私”でないことに安堵するのである。「なぜウクライナが戦うのかわからない」との声もよく聞く。日本人は、命をかけて同胞のために尽くすウクライナ人に共感できなくなっているようだ。
ウクライナの人々の希望は「平和」ではなく「勝利」である。これを私たちは理解できるのか。日本人は国が侵略された場合に「戦う」と答える人は13.2%しかおらず、世界で突出して最下位。これは日本の「平和主義」の現れとして誇っていいのか?
ウクライナ戦争から日本人の「平和」についての考え方、さらには人が生きて死ぬ意味を考え直してみたい。
●高世 仁(たかせ ひとし):
「日本電波ニュース社」報道部長を経てテレビ制作会社「ジン・ネット」を主宰。主に海外の報道・ドキュメンタリー番組を制作してきた。2020年以降はフリーのジャーナリストとして活動している。著書に『拉致―北朝鮮の国家犯罪』、『チェルノブイリの今―フクシマへの教訓』(DVD出版)、共著に『イスラム国とは何か』、『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』、『中村哲という希望』など。
第84回
●「侵攻3年、戦時下のキーウで見たもの~苦境で結束するウクライナの人々~」石井 将勝
- 2025年3月22日(土) 午後3時
- 早稲田大学戸山キャンパス36号館 682教室
●「侵攻3年、戦時下のキーウで見たもの~苦境で結束するウクライナの人々~」石井 将勝
ロシアのウクライナ侵攻は2025年2月24日で開始から3年が過ぎた。ロシアのプーチン政権による侵略を食い止めようと、欧米や日本はウクライナを支援し、対ロ制裁を科してきたが、ロシアは戦場での犠牲を顧みず、ウクライナは劣勢を強いられている。両国の戦死傷者は100万人を超えたとされ、民間人1万人以上も犠牲になった。
さらにウクライナを苦しい状況に追い込んでいるのが1月に再登板したトランプ米大統領だ。「ディール(取引)」外交によって停戦を自らの手柄にしたいトランプ氏だが、ロシア寄りの姿勢を隠そうとせず2月末にワシントンで行われたウクライナのゼレンスキー大統領との会談は決裂した。ロシアの脅威をより身近に感じる欧州は依然としてウクライナを支える姿勢を示しているが、米国が支援を打ち切ればウクライナが戦闘を継続することは難しく、苦しい選択を迫られる恐れが増す。
侵攻3年の節目にキーウで約3週間にわたり取材し、さまざまな人々に話を聞いた。ドローンの開発に活路を見いだそうとする人々、戦時下でも活動を続けるサーカス。地雷除去に携わるNGOメンバー。激しいミサイル攻撃を受けた地域で、相互理解を深めるために外国語教育に力を入れる学校の関係者。話を聞けば聞くほど、それぞれにストーリーがあり、圧倒された。
キーウは毎夜、空襲警報が鳴り響き、侵攻3年を迎える直前には過去最大規模の大量のドローンがウクライナ各地に飛来した。3年にわたる戦争で人々は疲弊しており、トランプ氏の言動が追い打ちをかける。戦争で家族を失った人々の心には怒りとやるせなさが広がる。それでも「正義のない停戦は受け入れられない」と語る人も多く、ウクライナ人の結束は高まっているかのようにも見える。最新情報も交えながらウクライナ侵攻の今後について展望する。
●石井 将勝(いしい まさかつ)
1975年東京生まれ。99年時事通信社入社。2009~14年ジャカルタ支局、16~22年モスクワ支局を経て現在外信部勤務。
第85回
●「『舟 北方領土で起きた日本人とロシア人の物語』について」樫本 真奈美
- 2025年5月17日(土) 午後3時
- 早稲田大学戸山キャンパス36号館 582教室
●「『舟 北方領土で起きた日本人とロシア人の物語』について」樫本 真奈美
『舟―北方領土で起きた日本人とロシア人の物語』カバー
マイケル・ヤング 著・樫本真奈美 翻訳
皓星社 2024 年7月10日発行 ISBN 978-4774408316
NHK北海道のニュース画面
北海道新聞の記事 2024年6月
舞台は終戦直後、歯舞群島の志発島。1947年、日本人引揚げの日。旧ソ連軍が北方領土を占領してしばらくした頃、大陸から移住してきたロシア人の子ども4人が「箱舟」で沖に流された。日本に帰れなくなるのを覚悟で引揚げ船に乗らずに救出に向かったひとりの日本人漁師がいた。
この実話を核とし、日ロ混住時代を描くノンフィクションを紹介、救われたロシア人のうちのひとり、生き証人の貴重なインタビューも収録。他、ウクライナ侵攻による翻訳、出版の苦労話など。
NHK北海道で紹介されました
https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20240627/7000068005.html
第86回
●「民族の平和的共存は可能か:言語学者ボードアンの非戦論」桑野 隆
- 2025年6月21日(土) 午後3時
- 早稲田大学戸山キャンパス36号館 581教室
●「民族の平和的共存は可能か:言語学者ボードアンの非戦論」桑野 隆
ポーランド出身の言語学者ボードアン・ド・クルトネ(1845―1929)は、近代言語学の創始者ソシュールの先駆として知られる一方、社会的発言、とりわけロシア帝国内の民族マイノリティ(ユダヤ人、ウクライナ人、その他)を擁護する発言を数多く残していたことはあまり知られていない。
しかしボードアンの社会的見解には、以下の2例にも端的に示されているように、約1世紀も前のものとは思えぬアクチュアリティが伴っている。
「〈歴史的権利〉とは、過去になされた暴力の権利でしかない。〈歴史的権利〉によって、ありとあらゆる略奪、不法、残虐、不公正を正当化することができる。現代のロシアをつくりあげている昨今の略奪と征服もまた、〈歴史的〉事実であり〈歴史的権利〉となっている。」 (『自治の面からみた民族的特徴と地域的特徴』1913)
「ウクライナ民族の民族的特質を剥奪しようとする強制的な〈感化策〉のすべては、きわめて悲惨な結果を今日までもたらしてきた。このような措置は、意識の高いウクライナ人の個人的・民族的尊厳にとどまらず社会的正義感をも侮辱することによって、はなはだ効果的な煽動や挑発となっており、抑圧者たちに対する頑強な反抗や内に秘めた敵意を呼び起こしている。しかもこうした敵意は、なんら悪意のないロシア民族全体にも向かっている。」(「民族を超越した視点からみた〈ウクライナ問題〉」1913)
歯に衣着せぬこうした発言を繰り返していたボードアンは、『自治の面からみた民族的特徴と地域的特徴』の刊行によって「政府転覆を煽った」として逮捕され、監獄生活を余儀なくされている。
今回の報告では、この『自治の面からみた民族的特徴と地域的特徴』を中心に1905~1926の著作をとりあげながら、「非戦」、「人間の尊厳」、「民族選択の自由」、「ウクライナ問題」、「ユダヤ人問題」、「学校教育」、「宗教」等をめぐるボードアンの見解を紹介していくことにしたい。
●桑野 隆(くわの たかし)
元 早稲田大学教育・総合科学学術院(教育学部複合文化学科)教授。
専門は、ロシア文化、表象文化論。
第87回
●「ユダヤの放蕩息子、マルク・シャガールの芸術世界」角 伸明
- 2025年9月20日(土) 午後3時
- 早稲田大学戸山キャンパス31号館 105教室
●「ユダヤの放蕩息子、マルク・シャガールの芸術世界」角 伸明
ユダヤ人であるシャガールが、偶像崇拝禁止の戒律に由来する視覚芸術禁止の伝統を抜け出して画家になった事情を東方ユダヤ文化・社会の変容から解説します。そして、若きシャガールの傑作の図像解釈を行い、幻想性のヴェールに覆われた作品の具体的な意味を解き明かし、シャガールがイディシュ文化の表現者としてたち現れていることを示したいと思います。また、シャガールはイコンやルボーク由来の表現手法を巧みに用いており、シャガール作品は文化的観点から見ると、ユダヤ文化とキリスト教文化のハイブリッド的作品になっていることも示したいと思います。
●角 伸明(かく のぶあき)
ロシア文学・シャガール研究者(関西大学、同志社大学講師)
第88回
●「ウクライナ侵攻下のロシア駐在体験&政治とバレエについて」中村 有紗
●「石巻の桑野塾――石巻学と石巻学プラスワンの10年」大島 幹雄
- 2025年11月29日(土) 午後3時
- 早稲田大学戸山キャンパス36号館 681教室
●「ウクライナ侵攻下のロシア駐在体験&政治とバレエについて」中村 有紗
ウクライナ侵攻直後の2022年6月~2025年3月までモスクワの在ロシア日本国大使館広報文化部で勤務していた経験から、報道等からはなかなか伝わらない現在のロシアにおける生活のことや大使館での仕事についてロシア人と話す中で感じたことをお話しします。
また、このロシア駐在経験を基に、現在大学院で研究中のテーマについてお話しします。今、ウクライナ侵攻下のロシアでは芸術界も政治に翻弄されています。その中でもバレエを取り上げ、ロシアにおけるバレエの歴史や立ち位置について解説していきます。
●中村 有紗(なかむら ありさ)
東京外国語大学ロシア語専攻卒。
卒業後は防衛省にてロシア語語学職として勤務。その後民間企業を経て外務省へ。
2022年6月から2025年3月までモスクワの在ロシア日本国大使館広報文化部に所属。
●「石巻の桑野塾――石巻学と石巻学プラスワンの10年」大島 幹雄
石巻出身の報告者が、2015年に創刊した石巻の歴史と文化をみんなで深掘りする雑誌「石巻学」とそこから発展した石巻学プラスワンは、石巻の桑野塾のような存在としてさまざまな人々が交差する広場となっている。発刊から10年となった節目の年に、この活動を振り返る。
●大島 幹雄(おおしま みきお)
石巻学プロジェクト代表・サーカス学会会長・桑野塾世話人
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