home > エッセイ > 「第10回一箱古本市」にデラシネ・ショップが出店 2010.05.02

2010.04.22

不忍ブックストリート「第10回一箱古本市」に
デラシネ・ショップが出店しました!

一箱古本市2010

 2010年5月2日(日)は、ぜひ谷根千散策のおついでにお立ち寄りください。
当日のレポート

デラシネショップが、5月2日谷中に進出!

 一箱古本市というとても楽しそうな古本市を、かつて3年ほど住んでいたことがある根津や谷中、千駄木界隈でやっていることを南陀楼綾繁氏が書いた『一箱古本市の歩き方』を読んで知りました。段ボール一箱のスペースをつかって本の販売をするというそのアイディアにまず惹かれたのと、どうもここに集まる人たちは本が好きそうな人たちではないか、そうした人たちと会いたいなというのが出店する動機となりました。

 ホームページ『デラシネ通信』の中にデラシネ・ショップをつくり、自分の本や、自分が関わった本とか、アートタイムスを販売していますが、今回はそれを丸ごと段ボールに入れ、行商しに行くという感じです。行商ですから、段ボールを覗いてくれる人には声をかけながら、売る楽しみを味わいたいと思っています。私、そして「デラシネ通信」のデスクの大野、そしてアートタイムス編集長の永重が、三人で行商しに行く予定です。散歩するには最高の場所です。ぜひおいでください。そして気楽にお声をかけてください。

 なお特典として、1000円以上ご購入いただいた方には、私が所蔵していたビデオ(VHSビデオです、DVDではありません)を一本プレゼントします。私が所蔵するビデオですから、サーカス関係が多いです。テレビから録画したものやダビングしたものがほとんどです、あしからず。近日中にこのリストもデラシネに掲載します。

 アートタイムスを置いていただいている古書ほうろうさん、この古本市を立ち上げた南陀楼綾繁さんなどに会えることも楽しみにしています。根津神社ではちょうどツツジ祭りをやっています。天気が心配ですが、なんとかなることを祈って、只今楽しみながら、鋭意準備中です。

大島 幹雄

デラシネ・ショップ in 一箱古本市(出店名:デラシネ出版社)

第10回一箱古本市
日 時 2010年5月2日(日
午前11時~午後4時 ※雨天決行
出店場所 貸はらっぱ音地(おんぢ)
★一箱古本市は4月29日(木・祝)と5月2日(日)の両日開催ですが、
 デラシネ出版社が出店するのは5月2日(日)のみです。ご注意ください。
販売予定リスト

(2010.04.29更新)

    書   名 価格
デラシネ・ショップ取扱い本
 大島幹雄「海を渡ったサーカス芸人」 2000
 大島幹雄「ボリショイサーカス」 600
 長谷川 濬 詩 / 熊谷 孝太郎 写真 / 大島 幹雄 編集
「木靴をはいて」
2000
 石巻若宮丸漂流民の会「世界一周した漂流民」 600
 石巻若宮丸漂流民の会
 会報『ナジェージダ』No.11~20合本 残部1
2000
 デラシネ通信社『アートタイムズ』1号 300
 デラシネ通信社『アートタイムズ』2号 300
 デラシネ通信社『アートタイムズ』3号 500
 デラシネ通信社『アートタイムズ』4号 500
 デラシネ通信社『アートタイムズ』5号 800
 ★アートタイムズ1-4号揃い 1000
 神彰「幻談義」 残部5 700
 セーヴェル24号 1000
特別出品
 久保覚「収集の弁証法」(遺稿集)・「未完の可能性」(追悼集) 2000
 宮内康「怨恨のユートピア」 3000
 大島憲治「東京霊感紀行」 1000
 「ドラマチック・ロシア in Japan」 2000
 清水恵「函館・ロシアその交流の軌跡」 1500

一箱古本市、ただ今鋭意準備中
5月2日を待ちわびる本たち

★1,000円以上お買い上げの方へのプレゼントVHSビデオリスト
バスター・キートン-ハードアクトに賭けた生涯 キートンの生涯を追ったドキュメンタリー
(148分)
チャップリンのサーカス(セル) ハードカバー入り
it's笑time コレクション上巻 喜劇映画研究会監修による喜劇映画の
ギャグを集める
it's笑time コレクション下巻
Mera Naam Joker インド映画「My name is Joker」英語字幕
 ※アートタイムズ4号で紹介しました。
フェリーニの道化師 ダビング版
ミミクリーチ京都公演 関西テレビで放映されたもの(1991)
あきれたサーカス W.C.フィールズの映画
海を渡ったサーカス芸人-ユタカサワダの二十世紀 東北放送制作のドキュメンタリー
フェリーニの道 NHK-BSで放映されたものを録画
黄金の馬車 ジャン・ルノアール監督
南米を巡業するコメディアデラルテ一座を描く
映画鞍馬天狗三本立て NHKBSで放映されたものを録画
シルクドゥソレイユの全て1・2 NHK-BSで放映されたものを録画
シルクドゥソレイユの全て3・4
ベルイマンの魔笛 テレビ朝日で放映されたもの(字幕)

 

デラシネ・ショップ「第10回一箱古本市」出店レポート

*クリックで拡大表示になる写真があります

【レポート1】 デラシネ通信社代表 大島幹雄

一箱古本市チラシ

一箱古本市チラシ

 8時すぎ奥さんと一緒に家を出る。とにかくリックがめちゃ重い。30キロは優に越えていると思う
奥さんにはおまけにプレゼントする予定のビデオとミステリー本を持ってもらう。
 連休中とあって電車は家族連れで一杯。品川まで座れず。大野からメール、待ち合わせ場所の日暮里南口に到着するのが少し遅れるとのこと。なんでも新橋から品川方面の山手線に乗ったらしい。

 9時半日暮里着。29日に下見に来ている大野のあとを付いて出店場所の貸しはらっぱ音地へ。谷中墓地を抜ける感じなのだが、いい町並みである。昨日よりもずっと暖かい。ちょっと歩くと汗ばむ感じだ。

開店直前の会場「貸しはらっぱ・音地」

開店直前の会場「貸しはらっぱ音地」

 いい感じの古い民家の隣の空き地が会場。すでにスタッフの方と店子さん4組到着していた。10時から打合せ、それからじゃんけんで場所決め、自分は3番めでちょうど真ん中あたりの場所を選択。それから準備。大野とかみさんがいるのでなんとなく手持ちぶさたになるが、すぐにそれを見破られ、スリップ差し込みの仕事を命じられる。ひとつヤバイことに気づく。今日の唯一の売れ筋と思われたアートタイムス5号が何故か5部しかない。ないというのではなく、5部しか持ってこなかったということだ。1号から4号までは10部ずつ持ってきているのに。

 セッティングがなんとか終わり11時いよいよ販売開始。デラシネ通信社の最初のお客さんは、一緒に店を出している赤いドリルさん、アートタイムスの1号から4号までをセットで購入してもらった。記憶をたどるとつい最近5号をデラシネショップから購入してもらった人であることが判明。なんとなく幸先がいい感じ。
 こんな路地に誰が来るんだろうかなんて思っていたが、すっかりこの古書展は定着しているのだろう、ここを目指してたくさんの人がやってくる。スタッフさんの話しだと29日の売り上げナンバーワンは、6万以上あったという。
 今回の案内をデラシネ通信号外で流していたのだが、それを読んだ野毛組がまずやってくる。冷やかしだけかと思ったら、いろいろ買ってもらう。画家の森さんが、レベルが高い古書展だと感想を言っていた。みんな本が汚れていない、みんな好きなんじゃないと言っていたが、これは本当である。
 隣のブースのブックオカの人といろいろ話す。わざわざ福岡から来たという。もともと本業は出版社石風社という出版社。カタログを見たらいい本をたくさん出している。中村哲さんの本や森崎さんの本、ちんどんの本も出してた。その隣のブースのLibre Tonsuretさんは、いつも自分の本を装丁してくれている西山さんが好きそうな本をたくさん売っていた。(そう言えば西山さんがつくった箱で本を売れたらいいかもしれない)購入する人といろいろ説明するのを聞いていると、本好きであることがよくわかる。驚くべきことにここを手伝いしている方が、サーカス本を集めているという。ボリショイサーカス他を買っていただいた。

デラシネ・ショップの「一箱」

デラシネ通信社の「一箱」

 今回は古本というよりは自分が書いた本、出している雑誌がメイン、いろんな本が並んでいるなかから本を探すというお客さんの流れから大きく背いている。だから一般の方で立ちどまって本を手にとりという人はあまりいなかった。それは計算づくだったのだが、ちょっとそうした楽しみを持ってきた人用にということで、かみさんがミステリーの上下ものを100円で持ってきてくれた。最初はぽんぽんと売れていったが、ぱったりとまる。ただ奥さんは中学生ぐらいの女の子が買っていったのをとても喜んでいた。自分を読んで面白かったものを、こうして若い子が手にとって読んでみようと思ったことがうれしいという。

 暑くなってきて、お客さんも増えてきた。ちょっと退屈してきて他の様子を見に行くため席を離れる。大野にあきてきたんでしょと、読みすかされる。
 この通りには古道具さんやギャラリーなど趣ある店が何軒かある。いい感じだよな。途中ほうろうさんにアートタイムスを紹介してくれた嶋田さんとばったり。団子坂に降り着く。途中そば屋さんや寿司屋さんの前にはランチタイムということもあって行列ができている。根津神社ではつつじ祭もやっているので、人は多い。不忍通りに出て、古書ほうろうを目指す。途中売り子のひとりアートタイムス編集長永重君とばったり。地図を見ながら我々の売場を探していたらしい。なかなか簡単には場所はわからない。場所を教えてやる。
 ほうろうの前には一箱のブースが5~6店出ていたがなかなかの盛況。ほうろうの中を見て歩く、いい品揃えだ。今日は帰りのことを考えて本は買うまいと決めていたのだが、「新・桃太郎の物語」という自分にとっては必読本をめっけ、さらには若宮丸の漂流民たちが立ち寄った南太平洋のマルケサスにも訪問したと書いてあった北杜夫の南太平洋紀行という珍しい本もみっけ、我慢できず購入。レジに座っていた店主の宮地さんにご挨拶。なんと先日納品したアートタイムスのなかで何号かが売り切れたという。夕方あまるはずのアートタイムスを持ってくることにした。

店主・大島が、にこやかに(?)迎えるデラシネ出版社ブース

店主・大島が、にこやかに(?)迎えるデラシネ出版社ブース

 奥さんからメール、昼飯をどうするということなのだが、この混みようではなんか買っていった方がいいだろう。団子坂の交差点の近くで稲荷寿司と海苔巻きを売っている店を発見、ここで20個買い、さらに一個100円の今川焼きを購入して、現場に戻る。状況の大きな変化はないという。今度は長谷川濬さんの息子さんがご来店。ちょうど昨日届いたばかりで、今日も持ってきてある濬さんの処女作が掲載されている、満洲時代から続く同人誌『作文』200集をプレゼント。いいタイミングだった。来週土曜日にりん(サンズイに「隣」の旁)二郎さんの展覧会を平塚に見に行く約束を交わす。さらにいつもデラシネの愛読者が来訪。プレゼントのビデオが目当てだったらしいが、1000円以上の買い物はできず。余ってもしかたがないので、一本ビデオをプレゼント。
 まずは先に自分たちがお昼をとることに。隣の古い民家で買ってきた稲荷と海苔巻きを食べる。行き交う人たちがみんなこっちを見ているのがちょっと気恥ずかしく、早めに食べてしまう。大野たちと交代。このころになると陽差しが直撃。日傘を差しながらの販売。アートタイムス5号を購入してくれた人たちといろいろ話す。「ハマの毛」のこともよく知っていた。こうして実際に買ってくれる人といろんなことを話しながら、売れるのがとても楽しい。
 インドから帰ったばかりというケントが奥さんと一緒に来てくれた。スリランカのサーカスがいいらしい。気になるな。
 森さんが朝言っていたように、ここに集まる人たちは確実に本が好きな人たちなのである。だから売っている本に愛情が感じられないもの、ブックオフのような売られ方をしているものを軽く無視していく。これがいい。奥さんの持ってきたミステリーものも、彼女からすれば愛情あるもので読んでもらいたいと思っているのだが、つけられている値段が100円というのがこうした本好きの人たちには気に入らないのじゃないかと思う。でもこうした本好きの人がたくさんいるというのはなかなか頼もしいし、勇気を与えてくれる。
 人はどんどん多くなり、このあたりになると結構コアな人たちが多くなってくる。途中集計を大野がしてくれる。1万2千円とまあまあの感じ。
 ここからアートタイムスを中心に売れ始める。懸念していたアートタイムス5号が売り切れ。大野が絶対これが売り筋だから、20部ぐらいもってくるかと思っていたのに突っ込まれる。魔が差したんだ、きっと・・・・
 南陀楼さんがやって来て、名刺の交換。このあとNHKの取材陣がやってくる。ふたつの店主さんが取材を受ける。ディレクターが当店にもやって来たのだが、デラシネってなんですかという質問、意味を説明したらすっと消えていった。デラシネという名前が彼女には興味あったのだろうが、その答えにきっと興味なくしたのだろう。
 終了まぎわに、朝一番に買っていただいた赤いドリルの那須さんが、サインをしてくださいと、「虚業成れり」と「サーカスと革命」の二冊を持ってくる。うれしいことに二冊ともきれいにセロファンでカバーをしてあるではないか。「サーカスと革命」なんか、まったく古本であることを感じさせない。私が出店しているということでわざわざ奥さんにこの本を持ってきてもらったという。うれしいなあ。赤いドリルさんは6月に古本屋さんを開店するとのことだが、これだけ本を愛してくれる人だから、どんな本を置かれているのか楽しみ。これを隣でみていた福岡の人も、「海を渡ったサーカス芸人」を購入してくれ、サインを頼まれる。閉店まぎわにずいぶん売れて、結局は21900円の売り上げ。上々なのではないだろうか。
 16時終了。他の人たちはめちゃめちゃ撤収が早い。「アートタイムス」6号楽しみにしていますとお別れされた。我々もなんとか片づけ撤収、リックが半分ぐらい軽くなっているのがうれしい。

 いやあ楽しかった。なによりこれだけ本好きな人たちと出会えたのがうれしかった。もうひとつはアートタイムスを手にする人がかなりいたことに手応えを感じた。今回は本好きの人が集まるであろうこのイベントで、そうした人たちにアートタイムスのことを知ってもらおうということが大きな狙いであったのだが、それはうまくいったのではないかと思う。すぐに購入まではいかなくても、大野がつくった6号のハガキをもって帰った人がたくさんいたし、何よりもアートタイムスを実際手にとってくれたひとがたくさんいた。自分たちも本が好きだから「アートタイムス」をつくっているのだが、ここに集まった人たちもそれを認めてくれたという気がした。ということはこういう人たちが集まるようなところで販売していけばいいということだ。
 天気にも恵まれたし、出店できて本当に良かった。

デラシネ出版社 大島・永重・大野 @ 根津神社つつじ祭り

デラシネ出版社 大島・永重・大野 @ 根津神社つつじ祭り

 家に帰る奥さんと別れ、我々はまずはアートタイムスを納品にほうろうへ。その前に打ち上げをする飲み屋を決め、そこに荷物を預かってもらい、つつじ祭をやっている根津神社へ。なんと20年前に住んでいたアパートの部屋がまだあるではないか。モルタルの二階建て、間違いなく誰かまだ住んでいた。神社の中はいろんな店が出て、すごい人出。生ニンニクを売っている店、靴や服を売る店、まるで韓国の縁日である。つつじはまだ満開とはなっていなかった。3人でツツジをバックに記念撮影。
 再びほうろうへ。5号と3号が完売だったとのこと。5号は手持ちがなく、後日郵送することに。新・レフ特集の3号を6部納品。

 飲み屋に戻ってビールで乾杯。しかし変な居酒屋だった。客のほとんどはおばちゃんたちだった。
 今日出会ったお客さんとの交流を肴に、いい感じで飲んでいた。というかかなり出来上がってしまった。朝担いでいたリックの重さが半分ぐらいになっているのがなによりもうれしかった。でももっとうれしかったのは直接話はできなかった人がほとんどだったかもしれないが、本が好きな人と会えたことだ。電子ブックが現実性をもって語られ、映画『華氏451』で描かれた本の危機とはまた違う本にとっては苛酷な時代が近づいているのだろうが、それは本がそんな好きじゃない人たちの話である。世の中これだけ本の好きな人がいるじゃないかということを実感できたこと、それが一番うれしかった。
 隣で本を売っていた方が、「アートタイムス6号楽しみにしてますよ」と何度も念を押すように言い残してお別れしていったことが思い出された。さあ、いいのを作らなくちゃ。


【レポート2】 アートタイムズ編集長 永重法子

一箱見本市の思い出

 いよいよ明日は一箱古本市だ。「デラシネ通信社」の大島さんと大野さんに誘われるまま、店番することにした。一箱古本市が一体何なのか、よくわからないなりに楽しみだ。前の日の晩は、町屋の友人・智佳の家に泊めてもらう。智佳は、芝居の演出などをやっている。一夜の宿を借りるついでに、彼女の企画書作りを手伝うことに。夜中まで一緒にブレインストーミングしたあと、悪い気がしたが、明日があるので先に寝かせてもらう。
 そうこうしているうちに、古本市にはとっくに出遅れ、気がつけば正午。遅い朝食のあと、智佳の道案内で千駄木に到着した。すでにこの辺りから、道端で本を並べる人、それを囲む人で、狭い谷中の路地はいっぱいになっている。
 千駄木に到着したはいいが、「デラシネ通信社」がいるはずの「貸しはらっぱ」がわからない。智佳と地図を広げる。あっちでもない、こっちでもないと、さんざん智佳と額を付き合わせてから地図から頭を引っこ抜くと、目の前に、大島さんがにやにやしながら立っている。「ほうろう堂さんに挨拶に行く途中」とのことだが、本当のところは、開店1時間でもう落ち着かず、徘徊を始めたのに違いない。「店主なのに」と内心つっこみを入れつつ、こんな風に思いがけず出くわすシチュエーションが、春らしく、谷中らしく、緩やかでいいと感じる。早くも楽しくなってきた。

 大島さんに教わった道を上がっていくと、「貸しはらっぱ」に出た。草が生えていればなおよいが、「貸し」を冠しているところに赴きがある。おなじみの大野さん、はじめて会う大島さんの奥さんに挨拶。ふたりとも、運動会を見守るおかあさんのようだ。白っぽい夏服が、陽ざしをぱりっと照り返している。そしてその足もとには、少しくすんだダンボールに大小新旧さまざまの本が並ぶ。不思議な光景だ。
 周りの出店者の皆さんも同じような感じ。小さな折り畳み椅子にかがんで座り、ちんまりと箱に入った本を見守る。東南アジアの市場、品物の傍らでぼうっと通りを眺めている人たちみたいな目をしている。

 さて、店番。
 椅子に座り、今度はお客さんたちの顔を眺める方へ。智佳はひとりでぐるり散策へ出かけていった。
 私は、本を売るのがはじめての素人さん。三々五々、人がやってきて、自分の目の前で本を取る光景は新鮮だ。何を探すでもなくふっと手を伸ばす人は、大きめの写真本を手に取ることが多い。数ページめくってみて、「これください」という時の表情と、興味をなくして本を元に戻す表情がほとんど一緒なのもおもしろい。来年は、自分でも本を持って行って、隅っこに置かせてもらおうかな。自分の本の前で、お客さんがどんな顔をするのか見てみたい・・・・・・。
 我らが『アートタイムズ』は古本ではないが、けっこう売れた。その場で買わない人も、ハガキサイズの広告に興味津々のようで嬉しかった。
 そのうちに大島さんが戻ってきて、店番やっている私の背後から「この本おもしろい」だの「普通の本屋じゃ置いてない」だのと言いだした。思い入れのある本ばかり持ってきたはずだ。本当は、店頭にやって来るお客さんに勧めたいのだろうが、それは照れくさいのだろう。私の方も念仏のように聞いているうちに、結局、それらの本が欲しくなって来てしまい、2冊購入。まるで古本のインサイダー取引だ。といいつつ、ちゃっかりおまけの本とビデオまでもらった。

閉店の16時。気が付くと、まわりの出店者さんたちはすぱっと去っていく。いつのまに片づけたんだろう・・・・・・さすが。こちら「デラシネ」も慣れない手つきで片づけを完了。一日中、日干しにされた本たちはじゃりじゃりと砂を含んでいる。なんだか小学校の遠足で帰り支度をしていた時のような疲労感。さあ、これからいつものように飲みにゆく。ビール、おいしいだろうなあ・・・・・・。


【レポート3】 デスク大野

4月29日(木・祝)
4月29日の「貸しはらっぱ音地」

4月29日の「貸しはらっぱ音地」

 一箱古本市の1日目を視察。の予定が、ヤボ用山積で完全に出遅れて、日暮里駅に着いたのがすでに夕刻。古本市は午後5時までだというのに。しかも刷って持っていったGoogle地図が役立たずで完全に迷子。古本市見つけた!と思っても、本じゃなくてカバンを売ってたり、段ボールに古本詰めて売ってるけど、普通の雑貨店だったり。そして路地をぶらつくたくさんの人。ここは古本市会場じゃないのに。なんておかしな町!
 結局5時までにはどの会場にもたどり着けなかった。「一箱古本市」って何? いったい私は何をすればいいの? という疑問はさっぱり解けないまま準備を進めなくてはならない。
 このまま帰るのも悔しいので、当日会場になる貸しはらっぱ音地だけ視察。ほんとに「はらっぱ」というか、住宅地の中のただの空き地だった。人通りもあまりない。ここが日曜日にはお客さんでいっぱいになるのだろうか。むむむ、まったく想像ができない。

本にはさんだスリップ

本にはさんでいたスリップ
(販売時には回収しました)

5月1日(土) 古本市用のスリップ(売る本にはさむ売上げカウント用の付箋)とアートタイムズ6号の宣伝ハガキを作成。あっ、ハガキ用紙がないっ。買ってこなくてはっ。普通のインクジェット用紙では芸がないからちょっと変わった紙にしよう、と思ったら予定数の50枚がそろってる商品がない。しょうがないので20枚ずつ違った紙を買ってきた。いざ印刷を始めてみると、そのうち1種類は裏にバックナンバー情報を印刷すると思いっきりにじむことが判明。・・・シール対応か。手持ちのシール用紙は高級なツルツルのやつしかない。ムダにものすごくハイグレードな宣伝ハガキ(しかもなぜか用紙に3種類のバリエーション)が出来上がったのが午前4時。・・・えーと、9時半集合だったっけ・・・。

5月2日(日)

 何がなんだか分からないが、とにかく、持つものを持って出発。忘れ物はないっ。たぶんっ。で、横須賀線からの乗換えで山手線を逆方向に乗ってしまい、10分遅刻。大丈夫か、私。どうにかこうにか日暮里駅にたどり着く。お待たせしていた大島さんご夫妻と合流し、自分ちの庭のような顔で貸しはらっぱ音地までご案内。そりゃあれだけ迷ったら土地勘もできようというものだ。

 スタッフさんや同じ会場の店主さんたちとご挨拶のあと、出店準備。まずは本日の商品すべてにスリップをはさまなくてはならない。これがなかなか大変。事前に大島さんにスリップを送っておけば良かったのだが、日程に余裕がなかったのが敗因。売れ線の文庫本をたくさん持ってきてくださった大島夫人が一番大変だったと思う。すみませんー。
 そして段ボールに本を陳列するのもまた、難事業。ああ、段ボールに入れると手前も両サイドも見えなくなるのか! なるべく高さのない段ボールを選んだつもりだったのだが、それでも一般書店の棚や平台の陳列とはまったく違う考え方を強いられる。ヨソの店主さんはどうやってるのかしら・・・と横目で偵察すると、皆さん同じ幅の本を揃えて背を上にし、ぎっしり詰めていらっしゃる。古書店の100円ワゴンの体裁。なるほど。ひるがえって当店のラインナップはと見ると、これがもう、表紙の幅が全然揃ってないでやんの。揃ってるのは大島夫人の文庫本だけ。あとは2、3冊ずつ好き勝手な幅をしていらっしゃる。しかも高さがあるから背を上にすると段ボールに入りきらないっ。ああっ、一箱古本市で輝くのは文庫本なのねっ。特にモンダイなのがアートタイムズ。「背」がない&「高さ」がありすぎ。どないせいっちゅうんじゃぁぁ。ボヤいていても仕方がないので、なんとなく詰め込む。タイトルが全部見えなくてもいいよね。なんか、端っこだけでも見えてればいいよね。見えてなくてもいっか。気持ちがどんどん後ろ向きになっていきそうになったが、大島夫人のアドバイスのおかげでなんとか並べ終えた。

午前11時、開店。そのちょっと前からもうお客さんが押し寄せてきた。はじめ「いらっしゃいませー」と言っていたが、大島夫人の「こんにちは」という接客用語に「なんてこの場にふさわしいお言葉」と感銘を受けてまねっこする。でも時々忘れる。そしてもう腹が減った。
 このあたりからの記憶があいまいである。早々に店主が逃亡したとか、永重編集長が道に迷ってたとか、隣のスタッフ休憩所でいただいたお昼ご飯がおいしかったとか、最初日陰だった「店舗」がどんどん西日にさらされていくのが面白かったとか、断片的なことは覚えているのだが、自分が何をしていたのかがよく分からない。

午後4時、閉店&集計。ぼーっとしているうちに、もうおしまいだという。最後に隣の「ブックオカ from 石の城」さんが『海を渡ったサーカス芸人』をお買い上げになったので、売上げが2万円を超えた。デラシネ通信社、初出店にして平均売上げ以上を達成。すばらしい。
 終日、お客さんは途切れることなくたくさん来ていただき、かなりマニアックな品揃えにもかかわらず手に取って見てくれる人もたくさんいた。そしてお財布を出して買っていってくれるお客さんまで。後半アートタイムズがなかなかの人気。力作の宣伝ハガキも含め、「欲しい」という感情を前面に出してくれる人がいっぱいいたのがたいへんうれしかった。

 この「一箱古本市」では、お客さんも売るほうも、なんだかみんなニコニコしている。そのへんの本屋でこんなニコニコがあふれているのは見たことがない。そして隙あらばお互い何か一言を言いたがる(隣の「LIBRE TONSURE」さんは「一言」じゃ済まない気配でたいへん楽しそうだった)。ヘンな本がいっぱい、このヘンな町にあふれていて、ヘンな人たちが集結している。みんな「本が好きだ!」という気持ちを解放してハイになっている。祭りだ。そうか、これは祭りだったのか。
 開店準備のときに陳列で四苦八苦していたが、あれはもっとラフで良かったに違いない。むしろ見えにくく詰め込んで「発見する楽しみ」を提供したほうが喜んでもらえたのかも。金銭のやりとりも、二の次なんだ、たぶん。

 気づいてみれば、私はヨソのお店に1コも行ってなかった。でも祭りの気分は存分に味わわせてもらったように思う。店主は打ち上げの席で「来年」を口にした。来年ももし参加するなら、最初から祭りモード全開で臨もうと思う。もちょっと体調を万全にして。